2023年 予防医学会総会
治療と仕事の両立支援
- 主治医と産業医の連携を推進する制度が成立した(厚労省)→https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/guideline/
- 就業者の1/3が通院しながら仕事をしている
- 離職理由の12%が健康上の理由(第3位)
- がん患者の1/3が離職している、診断時にやめる人も多い
- 主治医は就業者には仕事の悩みについても質問する
→悩みがあれば職場に相談することも提案する、産業医より意見書の求めがあれば応じる - 産業医がいない場合は、厚労省『治療サポ』から必要な手続きに関する情報収集ができる
予防医学と関係法規
- 2019 年に「脳卒中・循環器病対策基本法」が施行
人種と疾患
糖尿病とアジア人
- アジア人はインスリン分泌が欧米人に比べて少ない→欧米人はインスリン分泌が多く、肥満になりやすく、インスリン抵抗性により糖尿病を発症する、日本人は早期からインスリン分泌が枯渇し始める
高血圧とアジア人
- アジア人の高血圧は食塩高感受性(ナトリウムの排泄障害のため,食塩摂取で血圧が過剰に上昇)が多い
→食塩感受性高血圧にはサイアザイド系利尿薬がいい適応(→食塩感受性高血圧の本態は,ナトリウム排泄障害だから)
食塩感受性高血圧にARB/ACEI投与するとさらに食塩感受性が亢進する可能性が示唆されている→ACEI/ARBの増量×
ACE阻害薬/ARBで血圧が下がりにくい症例→食塩感受性高血圧を考えサイアザイド追加&減塩指導
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- 食塩感受性高血圧の特徴
- ACEI/ARBが効果乏しくサイアザイドの反応性良好
ARB/ACEI+サイアザイド(サイアザイドによるRAS系亢進をARB/ACEIがブロックするため)は相性が良い - 低レニン活性
Na排泄障害→RAS系の亢進がない→レニン活性低値 - 若年
動脈硬化が進行して起きた高血圧は,高レニン性高血圧の可能性が高く,食塩感受性は低いことが多い。逆に,動脈硬化のあまりなさそうな,比較的若年症例が高血圧できた場合,食塩感受性高血圧の可能性がある。 - Non-dipper型夜間高血圧(早朝高血圧の原因の1つ)
- ACEI/ARBが効果乏しくサイアザイドの反応性良好
がん検診
総論
- 日本においてはがん検診に年齢の上限制限なし
大腸がん検診(便潜血検査:FOBT、fecal occult blood test)
アメリカでは大腸癌罹患率・死亡率ともに日本より少ない
→健診普及率や高齢化などの違いによると推測されている
- 大腸癌罹患者数→日本の方が2.6倍多い
日本 15万3189人(2017年、がん登録速報)
アメリカ14万7950人(2020年、アメリカ対がん協会推計) - 大腸癌死亡者数
日本 5万1420人(2019年、厚生労働省人口動態統計)
アメリカ5万3200人(2020年、アメリカ対がん協会推計) - アメリカのデータでは、逐年検診で32%、隔年検診で22%の死亡率減少効果が示されている
- TCSによるスクリーニングは、現在RCTが進行中である
- 男女合わせると、大腸がんはがん全体の中で死亡率2位、罹患率は1位(約16万人/年)
- 毎年約5万人が大腸がんで死亡→アメリカよりも日本の大腸がん死者数が多い(検診受診率の差)
- 化学法については複数の RCT により,免疫法単独については 1 件の症例対照研究により,免疫法+化学法については複数の症例対照研究により死亡率減少効果があることが示されている
- 大腸癌死亡率および罹患率が 40 歳代から上昇することから,大腸がん検診は 40 歳から開始する
- 化学法:偽陽性が多く食事制限も必要なため現在は行わない
- 免疫法(FIT):食事制限不要で化学法よりもはるかに感度が高く,特異度はやや低い程度で遜色なく広く用いられる
- FIT 1 日法,2 日法,3 日法で大腸癌に対する感度がそれぞれ 56%,83%,89%、特異度はそれぞれ 97%,96%,94%で 3 日法が 1・2 日法より有意に低かったことより,感度・特異度のバランスを考慮して 2日法が好ましいとしている
- 特異度96%→偽陽性が4%→10000人検査すると400人が偽陽性で精検にまわり、精検受診者のうち真の陽性者は検診受診者24人に1人程度
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- 日本の大腸がん検診受診者数は253万7352人、うち精密検査が必要と判定された人(要精検者)は15万4004人(要精検率6.07%)、精密検査を実際に受診した人(精検受診者)は10万5826人(精検受診率68.7%)(2017年度、日本対がん協会調査)
- 米国での大腸内視鏡検査は数十万円かかり、米国では50歳を過ぎた国民に大腸内視鏡検査を無償で1回提供している→大腸がん検診受診率は約70%と高い一方、日本の検診受診率は約20~40%と低いうえにFOBT陽性でも約60%の人しか精査を受けていない
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肺がん検診
- アメリカのデータでは胸部レントゲンで肺がん死亡率が低下したというデータはなく推奨されていない、喀痰検査も同様
- 非喫煙者はいまのところレントゲンで十分(→低線量CTの有用性に関する臨床試験(JECS研究)進行中)
- 肺がんハイリスク(ヘビースモーカー:20本/日×30年)の人には低線量CTが推奨される
- 低線量CTは肺がんCT認定施設で検査可能
前立腺がん検診
- 厚労省はPSA測定『推奨せず』、日本泌尿器科学会は『絶対に行うべき』
- 前立腺癌の発見につながる可能性があるが、偽陽性や治療の有用性、死亡率の減少への有用性などまだまだ未解決
- いまのところは個人の判断となる
・対象者:年齢が50歳以上の方で5歳きざみ(50・55・60・65・・・)になる男性
・検査項目:問診・血液検査
・検診費用:1,200円(70歳以上無料)
・受診方法:○○市協力医療機関での受診となります。
膵癌
- 推奨される検診なし
- リスクを下げる以外、いまのところ方法なし、肥満、DM、喫煙、過度な飲酒を避ける
膀胱癌
- 推奨される検診なし
- 喫煙は膀胱がんのリスク因子
腫瘍マーカー
- 糖尿病の方では、悪性腫瘍を合併していない状態でもCEA/CA19-9が高値を示す場合があります。さらに血糖コントロールが悪いほど(HbA1cが高いほど)CA19-9やCEAの値が高い傾向があり、血糖が改善するとこれらの腫瘍マーカーが低下するという報告もあります。以上のように、悪性腫瘍を合併していない糖尿病の方の腫瘍マーカーが高いことの意義は十分明らかにはされていません。
ワクチン
肺炎球菌ワクチン
現在市販されているワクチンは3種類
現時点でもっとも予防効果が高いと考えられるのは、効果が高い順に
①23価→1年後に13or15価のブースター(自費)→23価でブースター(自費)
②23価→5年後に23価
③23価1回のみ →現在では、1回接種は推奨されていない(フローチャートに示されていない)
成人の肺炎球菌ワクチン(65歳以上のすべての人が接種対象)
→23価(PPSV23商品名:ニューモバックスNP)
15価(商品名:バクニュバンス)の2種類(15価肺炎球菌ワクチンは2023年4月に発売開始)
13価結合型ワクチン(プレベナー13)も成人に投与可能
小児用の肺炎球菌ワクチン
→13価結合型ワクチン(プレベナー13)のみ→成人にも投与可能
2014年~ 65歳を対象とするPPSV23による公費補助による定期接種が開始(自己負担4000円くらい)
現在は、65歳~100歳までの5歳ごとに接種対象とする経過措置がとられている
65歳以上であれば何歳でも任意接種は可能(ニューモバックス=8000円)
初回接種から5年以上経過していれば、PPSV23任意接種可能
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- 肺炎球菌には、90以上の種類があり、それぞれ特徴が異なる
- インフルエンザで起こる肺炎の6~7割は、肺炎球菌によるものといわれています。
インフルエンザワクチン接種も肺炎予防のためお勧め
- PPSV23 商品名:ニューモバックスNP
- 23種類の血清型は成人の重症の肺炎球菌感染症の原因の64%を占めるが
- 髄膜炎などIPDに対するニューモバックスNPの予防効果は42.2%
- 他の65歳以上の高齢者の市中発症肺炎を対象にした、前向き共同研究では
- すべての肺炎球菌性肺炎に対する効果は27.4%
- ワクチン血清型の肺炎球菌性肺炎は33.5%
- PCV15 商品名:バクニュバンス
- ニューモバックスNPとバクニュバンスを併用して接種するなら、日本感染症学会によると
- ニューモバックスNPを打ってから最低1年の間隔が保たれれば、その安全性には問題が無い
- バクニュバンス接種後のニューモバックスNPの接種は、ブースター効果が確認されている1年後~4年以内が望ましい
プレベナーはもともと7価ワクチンだった→13価に切り替えになった。
髄膜炎をきたした場合には2%の子どもが亡くなり、10%に難聴、精神の発達遅滞、四肢の麻痺、てんかんなどの後遺症を残す。
小児の肺炎球菌による髄膜炎に対する予防効果
2008~2010年は10万人(5歳未満)あたり約2.8人が罹患していた
ワクチンが普及した2012年には、約0.8人と、73%の患者減少が見られている
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HPVワクチン
- 子宮頸がんは子宮がんのうち約7割程度を占め以前は発症のピークが40~50歳代であったが、最近は20~30歳代の若い女性に増えてきており、30歳代後半がピーク。25-34歳の女性の浸潤がんでは乳がんに次いで2番目に多い。
- 接種対象の女性:小学校6年生~高校1年生相当
- 2013年以降中止していたHPVワクチン接種の積極的勧奨を、2022年4月より再開した(9年間の中止)
- 積極的勧奨の差し控えの期間に12~16歳だった年代(誕生日が1997年4月2日~2007年4月1日)の女性を対象に、2022年4月より「キャッチアップ接種」が開始された
- 子宮頸がん=別名マザーキラー、日本では1.1万人/年が発症し、うち2900人/年が死亡している
- 一生のうち、日本人女性1万人あたり132人が頸がんを発症し、34人が死亡する
- HPVは、女性の多くが“一生に一度は感染する”といわれ健常女性のHPV陽性率は20歳代が最も多い。しかし、ほとんどの人は一過性感染で、自分の免疫によってHPVは自然排除され30歳以降では10%程度に下がる。ウイルスを排除することが出来ずに感染が長引いてしまうと(持続感染)、この中で一部の人に前がん状態や子宮頸がんが発症すると考えられている。
- HPVには200種類以上のタイプ(遺伝子型)があり、子宮頸がんの原因となるタイプが少なくとも15種類ある
- 2023年現在、もっとも有効性が高いワクチンはシルガード(80-90%のウイルスをブロック)
- 感染予防効果を示す抗体は少なくとも12年維持される可能性があることが、これまでの研究でわかっている
- 海外での成績では、HPVワクチンの接種を1万人が受けると、受けなければ子宮頸がんになっていた約70人ががんにならなくてすみ、約20人の命が助かる、と試算されている
- 因果関係があるかどうかわからないものや、接種後短期間で回復した症状をふくめて、HPVワクチン接種後に生じた症状として報告があったのは、接種1万人あたり、サーバリックス®またはガーダシル®では約9人、シルガード®9では約8人、このうち、報告した医師や企業が重篤と判断した人は、接種1万人あたり、サーバリックス®またはガーダシル®では約5人、シルガード®9では約7人
- 世界的にもHPVワクチン接種は2006年に開始されたばかり(日本は2009年~、2013年から中止)で、長期成績に関する国内データは乏しい
- 2019年の日本の接種率は1%台にとどまっている
ワクチン接種にかかわらず、子宮頸がん検診は重要
日本では2年に1度定期的に検診を受診することが推奨されている(→緩徐進行性のため)
頸癌細胞診と同時にHPV感染検査も併用して検診している自治体もある
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![](https://gekainohonne.com/wp-content/uploads/2023/06/image-27.png)
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遺伝性疾患
BRCA遺伝子変異
- BRCA1は、DNAの恒常性を保つのに必要ながん抑制遺伝子
- BRCA1に生殖細胞系列変異がある家系では、65-85%というとても高い確率で乳がんや卵巣がんが発症するので、欧米では変異を持っている人(キャリア)に対して、がんが発症する前に予防的に両方の乳房や卵巣をとる手術が行われている
- 健常者でBRCA1遺伝子又はBRCA2遺伝子に変異が確認される割合は、欧米では400~500人に1人と言われている
- 日本人の卵巣がんにおけるBRCA遺伝子変異陽性の割合は14.7%と欧米人を対象とした研究報告(14.1%)と同程度
- 膵癌発症リスクも高い(膵癌患者の5%程度)
- BRCA遺伝子検査の保険適応:63000円(3割負担者)
- 卵巣がん・卵管がんと診断された方
- 乳がんと診断された方のうち以下にあてはまる
- 45 歳以下で診断された
- 60 歳以下でトリプルネガティブ乳がんと診断された
- 2 個以上の原発性乳がん
- 第 3 度近親者内(前出の図を参照)に乳がんまたは卵
巣がんと診断された方が 1 名以上いる - 男性乳がん
- 近親者に BRCA1/2 遺伝子変異がある
生活習慣
食生活
飲酒と健康
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- 厚労省eヘルスネットより→どこよりも詳しい!
- 一般的に1時間で分解できるアルコールの量は「体重×0.1g程度」
- アルコール1単位(=20g)の分解にかかる時間は4‐5時間(個人差あり)、尿中排泄はごくわずかで肝代謝が規定因子
- アルコールによる生体反応
- アルコール:酔いの原因、急性アルコール中毒
アルコールは高次脳機能を抑制し、少量の飲酒では大脳前頭葉皮質の機能低下に基づく脱抑制により多幸感、多弁、ほろ酔い気分が生じる。また、頭頂葉、後頭葉、側頭葉の皮質の機能低下により痛覚、視覚、臭覚、味覚などの感覚が鈍麻する。抑制は徐々に下位の中枢神経系へ広がり、大脳辺縁系の抑制によって情動行動の失調や自発性の低下が、小脳の抑制によって運動障害や歩行障害が生じる。そして脳幹部が抑制されると、昏睡状態から呼吸停止、さらに死に至る。 - なぜお酒を飲みたくなるのか?アルコールを飲んで楽しい気分になる理由は脳内で楽しさや心地よさといった感情を生み出す「ドーパミン」という神経伝達物質の分泌が促されるため。
- アセトアルデヒド:顔が赤くなったり、動悸や吐き気、頭痛が引き起こされるなどの原因
- アルコール:酔いの原因、急性アルコール中毒
- アルコールの分解と吸収
- アルコール代謝に関与する酵素は2種類でADH、ALDHがある
- ADHにも遺伝子多型が報告されており、アルコール代謝に個人差がある→2日酔いとは無関係(アセトアルデヒド活性に規定されるため)
- ALDH(→2種類ある)のうちALDH2は、アセトアルデヒド代謝の主役で東アジア人に酵素活性低い人が多い
- ALDH2欠損型の人:
ホモ欠損型の人は、酵素活性がゼロで酒が飲めない下戸の体質
ヘテロ欠損型は、フラッシング反応が弱い人や飲んで鍛えているうちに耐性ができて飲めるようになる人もいる - ALDH2欠損型の人の割合は沖縄・九州南部・東北地方では30%台以下と少なく、九州北部や京都・大阪・愛知では50%前後と多いという地域差がみられる( 日本人では、NN型(=wild type)の人は5割、ND型(=ヘテロ欠損型)の人は4割、DD型(ホモ欠損型)の人は1割)
- ALDH2欠損型の人:
- アルコールは胃(→20%)にあるうちはゆっくりと吸収され、小腸(→80%)に入ると速やかに吸収される
- 胃切除後に人はすぐにアルコールが小腸まで流れ込むため、ビール1缶(350mL)相当の飲酒実験では胃切除前に比べて血中アルコール濃度が約2倍になると報告されている
- 同じアルコール量なら毎日少しずつの方が一度の大量飲酒より心筋梗塞リスクは少ない
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発がん性
世界保健機関(WHO)は、飲酒は頭頸部(口腔・咽頭・喉頭)がん・食道がん(扁平上皮がん)・肝臓がん・大腸がん・女性の乳がんの原因となると認定している。エタノールとアセトアルデヒドの両者に発がん性があり、ALDH2の働きが弱い人では、アセトアルデヒドが食道と頭頸部のがんの原因となる。
認知症
大量の飲酒は認知症の危険性を高める一方で、少量の飲酒は認知症を予防する可能性が示されている。
糖尿病
適切な飲酒による適量のアルコール摂取は糖尿病の発生を抑える。具体的には1日あたり20~25g程度のアルコール摂取が糖尿病の発生を抑えるとされる。しかしそれを超えた飲酒量では、肝臓に蓄積した脂肪への影響や、膵臓からのインスリン分泌を抑える影響から、血糖値を上昇させる可能性がある。
循環器疾患
適量の飲酒は循環器疾患に保護的に働くといわれている。※1ドリンク=10gのアルコール量
①冠血管疾患
男性で約2ドリンク、女性で約1ドリンク(飲酒量の単位の項目を参照)の飲酒なら心臓関連死のリスクが20%減る。
②心不全
約1~2ドリンクの飲酒なら保護的に働くが、それ以上の飲酒は心不全発症率を上昇させる。
③高血圧
少量のアルコールは血圧を一時的に低下させるが、長期間の飲酒は血圧を上昇させ、高血圧の原因になりうる。
④脳梗塞・脳出血
脳梗塞は約2ドリンクの飲酒は保護的に働く。脳出血はアルコール摂取量が増えると直線的にリスクは増加する。
⑤不整脈
飲酒は心房細動を誘発する。平均2合(約4ドリンク)以上の飲酒をすると、心房細動の罹患リスクが約2倍になると報告されている。
アルコールは肝代謝が主であり,実際は輸液をしてもアルコール血中濃度が急激に下がることはなく,代謝には影響しない。急性アルコール中毒患者に20 mL/kgの生理食塩水をボーラスで輸液した群と輸液をしない群とで比較し他研究では、輸液群では287分,輸液なしの群では274分と病院滞在時間に差はなく,観察中のバイタルサインや血中アルコール濃度の変化,判断能力低下や呂律困難などのアルコール中毒による症状も両群で差はなかった.日本でも救急外来にきた急性アルコール中毒患者で輸液群(42人)と輸液なしの群(64人)の滞在時間を比べた結果、輸液をしなかった患者の滞在時間は189分,輸液ありの患者は254.5であった。ちなみにお酒飲んで尿量が増えるのはアルコールが視床下部に働いて,抗利尿ホルモンが出なくなるからといわれていて,軽い尿崩症になっているため。
発がん物質
- WHOの付属研究機関IARC(国際がん研究機関)の発表
- グループ1(発がん性がある):加工肉、たばこ、ピロリ菌、アルコール
- グループ2A(おそらく発がん性がある):赤身肉(牛、豚など)→白身肉(鶏肉)や魚は有害性指摘なし
トランス脂肪酸
- トランス型不飽和脂肪酸(トランス脂肪酸)は、構造中にトランス型の二重結合を持つ不飽和脂肪酸
- 水素を付加して硬化した部分硬化油を製造する過程で多く生成される。マーガリン、ファットスプレッド、ショートニングはそうして製造された硬化油である
- LDL↑、HDL↓、冠動脈疾患のリスク↑↑
- WHO(世界保健機関)では、トランス脂肪酸の摂取量を「総エネルギー摂取量の1%未満」にするよう勧告、日本人では1日当たり約2g未満に相当
- トランス脂肪酸を低減したマーガリンもある、いまではバターよりマーガリンの方が少なくなっている(雪印、明治、小岩井乳業、各社が販売している)
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ショートニング(shortening)は『サクサクさせる、ポロポロにする』という意味を持つ、植物、動物油脂を原料とした練りこみ専用の固形油脂として開発されました。
窒素ガスを混入した固体状以外にも液体状や粉末状のものも生産されていて、水分や乳成分を含まず、ほぼ100%が油脂成分で香りはほとんどありません。白色で無味無臭の油脂です。
ショートニングは、19世紀末のアメリカで、ラードの代用品として生まれ、ラードコンパウンド(ラードの代用品)とも呼ばれていました。
現在の「ショートニング」という名称は、パン、ビスケットなどの原料として使用した場合、その口あたりをよくし、もろさを与えるという意味の英語(shorten)からきています。
ショートニングには味がないためそのまま食べることはなく、その食品のおいしさを引き出すための欠かせない存在として、焼き菓子やパンに練りこんで使われるのはもちろん、意外と知られていないアイスクリームやフライ用としての用途があります。常温における伸びのよさ、生地への混ざりやすさなどに優れていて、名前の意味のようにクッキーやビスケットなどはサクサク、ポロポロとした軽い食感を出すことができるため、お菓子作りには欠かせないものとなっています
高血圧
生活習慣の修正
- 食塩制限
- 食塩摂取量と血圧には相関性あり(食塩感受性高血圧と食塩非感受性高血圧ともに降圧効果あり)
- 目標は6g/日未満
- Na換算式:Na量(g)×2.5=食塩相当量(g)
- 10%の食塩濃度変化は人間は区別できない→減塩するなら-10%ずつ減塩すると効果的
- 運動
- 有酸素運動により血圧は低下する(1日30分)
- 有酸素運動は同時に肥満、糖尿病、脂質異常にも効果的
- 減量
- 適正体重でなくとも-4~5㎏の減量は降圧効果あり
- 内臓脂肪肥満の改善を目指す
- SASの合併もチェックする
- アルコール摂取制限
- 男性で20~30mL/日(日本酒1合、ビール500mL)、女性で10~20mL/日以下が推奨
- カリウム摂取
- 野菜の摂取で血圧低下する
- 魚油(不飽和脂肪酸)
- 禁煙
- 喫煙は腎血管性高血圧のリスクであるが、その他の抗血圧との因果関係は乏しい
- 虚血性心疾患、脳卒中のリスクであり、高血圧患者では禁煙が推奨される
- 寒冷暴露を避ける
高齢者高血圧
- 65歳以上の高血圧でも140/90未満を目指す
脂質異常症
運動療法の目的
身体活動量が多い者や、運動をよく行っている者は、総死亡、虚血性心疾患、高血圧、糖尿病、肥満、骨粗鬆症、結腸癌などの罹患率や死亡率が低いこと、また、身体活動や運動が、メンタルヘルスや生活の質の改善に効果をもたらすことが認められている。更に高齢者においても歩行など日常生活における身体活動が、寝たきりや死亡を減少させる効果のあることが示されている1,2,3,4)。
- 体力、全身持久力、筋力、筋持久力、柔軟性、心肺機能、バランス能力の維持・改善を図ること
- 立つ・歩く、起き上がる、座る、階段などの移動動作能力と日常生活動作の維持・改善を図ること
- 活動的に日常生活を送り、生活の質を高めること、健康寿命を延ばすこと
- 生活習慣病や肥満の予防・改善を図ること
- 筋肉や骨への刺激により、筋萎縮や骨粗鬆症を予防すること
- ストレスの発散やリラクゼーション効果を得て、心の健康を保つこと
逆に、運動不足は体力や全身持久力が低下→さらに身体活動量が減少→ますます体力や全身持久力の低下、筋力や筋持久力の低下→運動嫌いになりさらなる活動量量低下という負のサイクルになる。
運動の効用
科学的根拠のあるものについて、運動の効用をまとめると下記のようになる。単に身体面だけでなく、精神的、心理的、社会
的効用もある。
- 動脈硬化性の病気、特に心筋梗塞の危険性を減少
- 体脂肪を減らし体重のコントロールに有効
- 脂質異常症(低HDLコレステロール血症、高トリグリセラ
イド血症)の予防・改善に有効 - 高血圧の予防・改善に有効
- 糖尿病やメタボリックシンドロームの予防・改善に有効
- 骨粗鬆症による骨折の危険性を減少
- 筋力を増し、色々な身体活動の予備力が向上
- 筋力とバランス力を増やし、転倒の危険性を減少
- 乳がんと結腸がんの危険性を減少
- 認知症の予防・改善に有効
- 睡眠障害の改善
- ストレスの解消、うつ病の予防・改善に有効
- シェイプアップし、自己イメージが改善
- 家族や友人と身体活動の時間を共有
- 良い生活習慣が身につき、悪い生活習慣を止めるのに有効
- 老化の進行を防ぎ、QOL(生活の質)の改善に有効
運動の臓器別の効用
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運動に関する疫学研究
日本では運動不足による死亡者数は、喫煙、高血圧に次ぐ第3位でその数は年間約5万人である(平成25年の厚労省の公式会見)
2007年の我が国における危険因子に関連する非感染症疾病と外因による死亡数
![](https://gekainohonne.com/wp-content/uploads/2023/01/image.png)
運動を含めた身体活動量が多いほど、がんだけではなく、全死亡リスク、心疾患や脳血管疾患(=いわゆる3大疾病)での死亡リスクを低下する(JPHC study)
運動強度指数(MET)値に活動時間をかけた「METs×時間」を身体活動量として、活動量の多さによって4つにグループ分けした対象者の身体活動量(L群)と全死亡、がん、心疾患、脳血管疾患での死亡との関連を調査した日本の研究(JPHC study、N=83000人を10年間にわたって調査)では、身体活動量が最大の群(H群)では、がん死亡リスクは、男性は0.8倍、女性は0.69倍に低下し、心疾患死亡リスクは男性で0.72倍低下することが報告された。女性では心疾患と脳血管疾患の死亡リスクの低下傾向がみられた。
1日の身体活動量(METs)と死亡との関連
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運動療法の種類
有酸素運動
無酸素運動
筋力トレーニング
- 筋力トレーニングとは、筋力を増強させるための運動
- 等尺性運動:関節の動きを伴わず行う。関節への負担も少なく、低負荷で行えるため、筋力や体力が低い方や、運動療法の開始時に取り入れやすい運動。
- 等張性運動:関節の動きを伴う
- レジスタンス運動:筋肉に負荷をかけて繰り返し動作を行う等張性運動
ストレッチング
筋肉の柔軟性を高めるための運動で、運動を行いやすくするためや、怪我の予防、疲労の蓄積を予防するために、運動前後に取り入れられることの多い運動です。
ストレッチングには、関節の動きを伴って筋肉を伸ばす・縮ませることを繰り返して行う動的ストレッチングと、筋肉をある程度伸ばした状態で静止して行う静的ストレッチングとがあります。
静的ストレッチングは、関節や筋肉への負荷も軽く、リラクゼーション効果も得られるので、運動療法を開始した時期や運動後のクールダウンとして用いられます。
運動療法各論
高血圧症
- 血管内皮機能を改善し、降圧効果が得られる
- あるシステマティックレビューでは、長期的な有酸素運動により、高血圧患者では収縮期血圧を7.4mmHg、拡張期血圧を5.8mmHg低下させる効果があると報告されている
- 1回30分、週2回程度の有酸素運動や、1日8000歩程度の中強度の身体活動を 3ヶ月実施した場合でも降圧効果があるという報告がある
- 1週間あたりの総運動時間あるいは総消費カロリーで設定することが適当であるといわれている
脂質異常症
- 脂質異常は動脈硬化の危険因子の1つ(動脈硬化→脳梗塞、心筋梗塞/狭心症、大動脈瘤、ASOなど)
- 治療は食事療法+運動療法(とくに有酸素運動)が基本
- トリグリセリド(血中カイロミクロン、VLDL、LDL)の分解を促進し、HDLを増やす
- 脂質異常症の改善には、中等度の強度の有酸素運動を毎日30分以上継続することがよい(日本動脈硬化学会 脂質異常症治療ガイド 2013年版改訂版)
- 時間がとれない場合は、1日10分でも多く、歩く、階段を上り下りするなどの運動を心がける(+10、プラステン)
- 内臓脂肪を減らす場合は、1日60分以上の運動が推奨される(同学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版)
中等度の(運動)強度とは、楽に行える程度からややきついと感じる程度の、息が弾むくらいの運動のこと。
脈拍からの推定方法として、心拍数(脈拍/分)= 138 -(年齢/2)があります。
私のイメージ的には、30分程度の時間であれば休憩せずに継続できる運動強度というところでしょうか。
- 体力、全身持久力の維持・改善を図り、身体活動量が多くなる
- 血中の中性脂肪を減少し、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を増やし、血中脂質を改善する
- 内臓脂肪が減少して肥満の改善・予防につながる
- 筋肉量が増大し、血糖の代謝が促されてインスリン感受性が高まる
- 動脈硬化性疾患やメタボリックシンドロームの予防・改善
- ストレスの解消
- 脳の活性化
- 骨密度の増大
- 生活の質の改善
糖尿病
- 運動療法は、血糖コントロール、インスリン抵抗性、脂質代謝の改善が得られ、糖尿病を改善する
- さらに運動により、内臓の脂肪細胞が小さくなることで、肥満を軽減し、脂肪組織から産生されるアディポサイトカインなどのインスリンの働きを妨害する物質の分泌も少なくなる
- 筋肉や肝臓の糖の処理能力が改善し、血糖値が安定する
- 筋肉量の減少は糖の貯蔵能力の低下を意味し、糖負荷に対する血糖上昇反応が強くなり、耐糖能異常や糖尿病に進展するリスクが高くなる
- 加齢によって減少しやすい大腿前面および体幹部の筋肉を強化するスクワットや上体起こしなどの運動を導入することによって、耐糖能の低下を抑制する効果が期待できる
認知症
1)U.S. Department of Health and Human Services: Physical Activity and Health. A Report of the Surgeon General, International Medical Publishing, 1996
2)厚生省保健医療局健康増進栄養課: 健康づくりのための年齢・対象別身体活動指針,1997
3)Province MA, et al: The effects of exercise on falls in elderly patients. A preplanned meta-analysis of the FICSIT trials. JAMA 1995;273:1341-1347
4)Hakim AA, et al: Effects of walking on mortality among nonsmoking retired men. N Engl J Med 1998;338:94-99
5)