外傷診療

目次

Wound&Injury

手の腱断裂

  • 屈筋腱:親指は1本、その他の指には2本ずつの屈筋腱がある
    手指屈筋腱断裂では,深指屈筋腱と浅指屈筋腱の両方が断裂すれば,指の自動屈曲(自分の意志で曲げること)は不可能となるが,深指屈筋腱単独の断裂ではPIP関節の自動屈曲は浅指屈筋腱の働きにより可能であるため見逃されやすい。
  • 伸筋腱:人差し指と小指は2本、その他の指は1本の伸筋腱がある
    手指伸筋腱断裂は断裂部位によって症状が異なる。終止伸筋腱の断裂ではDIP関節が伸展不能となり,伸筋腱中央索の断裂では側索の働きによりPIP関節の伸展障害はすぐには生じないが,時間が経つと側索が掌側にすべり落ちてDIP関節過伸展,PIP関節屈曲のボタン穴変形を生じる。MP関節より中枢での伸筋腱断裂ではMP関節が伸展不能になるが,側索の働きによりDIP関節とPIP関節は伸展可能である。
  • 腱断裂の治療:開放性断裂の場合は速やかに腱縫合術を行うべきであるが,受傷当日の手術が困難な場合には創をよく洗浄して皮膚縫合を行い,数日以内に手術室で腱縫合術を行う(救急外来での腱縫合は行うべきではない)

外傷初期診療 Primary survey

PSの手順

  • 入電→MISTで聴取(M→受傷機転、I→受傷部位、S→ショックの有無とロード&ゴー適応理由、T→初療)
  • 準備→加温ラクテック2ルート分(+18G)、標準予防策、聴診器、エコー、救急カート(挿管セット、トロッカー、シース、開胸器と大動脈遮断鉗子)、採血、ポータブルレントゲン
  • 接触→ABCDEを数秒で評価し、スタッフと共有『第一印象○○』
  • 初療室→アンパッケージは頭部から行う!
    Aから順に再評価、バイタル測定、点滴(18G以上を2本)、採血、胸部骨盤レントゲンを同時進行
    • A(口鼻腔~頸部):見て(外傷、頸静脈怒張、呼吸補助筋の使用)、聞いて(→喘鳴、嗄声、口腔内異常音)、触って(気管偏位、皮下気腫)、SPO2もチェック
    • B(胸部):視聴打触
      気管偏位、頚静脈怒張、皮下気腫、片側胸郭挙上があれば、緊張性気胸
    • C:SHOCKのサイン、FAST、胸部骨盤レントゲン
      • Cの観察項目を“SHOCKな画像”で覚える!
        • Skin (冷感, 湿潤の有無)
        • HR (脈の強弱, 速さ)
        • Outer bleeding (全身の活動性出血)
        • CRT (感度特異度低い)
        • Ketsuatu (これだけ日本語(笑))
        • 画像 (FASTと胸部,骨盤部Xp)
      • ショックと診断されればFIX-Cで原因検索&初療を開始(Non-responder→入れて入れて止めろ(挿管+輸血+止血術)!)
    • D:切迫するDの評価
      • 切迫するD
        • GCS8点以下
        • GCSが急速に2点以上低下
        • 脳ヘルニア徴候(瞳孔左右差、片側麻痺、高血圧と徐脈)を伴う意識障害
          • “まいど” もしくは “LLL” で 覚える!
            • ま) 麻痺の有無 Laterality
            • い) 意識レベル Level of cons.
            • ど) 瞳孔径 Light of reflex, pupil size
          • 〈GCS〉
            Eye
             開眼「眼を開けてください」→「痛み刺激」
             E4:自発的に開眼
             E3:word(言葉)により開眼(3とwと似てる)
             E2:痛みにより開眼(2=痛)
             E1:開眼しない
            Vocal 音声言語反応「わかりますか?」→「今日はいつ? ここはどこ? 私は何?」
             V5:見当識あり(time、 place、person)
             V4:混乱(time、 place、 personが)
             V3:不適当な単語(word)のみ(ハイ、ハーイ)(3とwと似てる)
             V2:無意味な声(うー、うーのような唸り声)
             V1:声なし
             VT: 気管挿管=1点
            Motor 最良運動反応「手を握ってください」→痛み刺激
             M6:指示に従う(OKと指で6を作る)
             M5:払いのけ=痛み刺激部位に手を持ってくる(5本指を持ってくる)
             M4:逃避、屈曲=爪を押すと脇をあけて手を引っ込める(形が4に似ている)
             M3:痛み刺激で除皮質肢位(両手背を胸の前で併せ3を作る)除皮質肢位は脇は開かない
             M2:除脳硬直肢位(横からみると腕の形が2に似ている)
             M1:全く動かない(全身の形が1である)
    • E:Exposure and Environmental Control:脱衣と体温管理
      • 完全脱衣し体温測定。体温確認したら毛布で覆い保温に努める。
    • Primary survey(PS)の総括
PSで診断・加療しなければならない疾患リスト
  • PSにてバイタルに異常なければ画像検索へ→バックボードのまま搬送しCT室にてバッグボードをはずす→背面観察
おまけ:JCSについて

Secondary survey

  • AMPLE
  • PATBED2X
  • FIXES

JPTEC、JATEC、JETEC

  • JPTEC→病院前救護
  • JATEC→PTD(preventable trauma death)を回避することを目的に生理学的徴候の異常から診療を開始すること
  • JETEC→根本治療に焦点を当てた専門診療の研修

JATECテキスト覚書

  • 確実な気道確保の適応→ABCDいずれかに異常があるとき
  • 輪状甲状靱帯穿刺:14G+2.5mL+7.5㎜=15㎜(BVM装着可能)
  • 血液型不明の場合はO型Rh+赤血球とAB型Rh+FFPを投与する
  • 急性期Hb目標値は10g/dL(止血完了後は7g/dL)

外傷分類とスコアリング

重症外傷

  • 明確な定義なし
  • 日本外傷データバンク(トラウマレジストリー)への登録は

多発外傷 Multiple Trauma

  • 定義:AIS3点以上の外傷が2領域以上(全6領域)の外傷
  • AIS3点の外傷とは
     頭部: 
     胸部:
     腹部:GradeIIIaの肝損傷

AISとISS

AIS

ISS 外傷重症度スコア

Abbreviated Injury Scale Injury Severity Score
9領域 6領域(頭頚・顔・胸・腹・四肢骨盤・体表)
1~6段階 1~75
AISコード表から調べる AISから自動的に算出
ーーー ISS=上位3領域の平方の和
   

災害 Disastar

定義:自然現象や人為的な原因(事故など)によって、人命社会生活に被害が生じる事態


多数傷病者事故(Mass Casualty Incident; MCI)

定義:地域の救急医療体制において通常業務範囲では対応不能な多数の重症傷病者を伴う事故災害
具体的な人数の定義はない
   MCI発生時の現場医療対応
    1.指揮命令系統の確立
    2.安全確保
    3.情報伝達
    4.トリアージ
    5.処置/治療
    6.搬送 
   の優先順位を守らなければならない。
黒タグは搬送の適応外、赤タグから搬送を開始する。


外傷と関係法規

診断書交付の目安
  • 打撲は2週間未満
  • 手術を要する骨折は3か月~(3か月以上であれば刑事処分は同じ)

重症肝損傷

  • AAST-OIS GradeIV以上は有名外傷センターであっても7年で11例しかいない(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjast/33/3/33_324/_pdf/-char/ja)
  • 開腹5点パッキング、プリングル、REBOA、大動脈遮断、TAEを駆使する
  • パッキング後の動脈性出血の残存の頻度52~62%(日本では71.4%)
    胆道系損傷はわずか3%しかいない

4-3 初期診療のTips

  • PSで尿道留置カテ挿入が必要なとき 
     ①蘇生中のモニタリングとして
     ②出血源検索として
    このときは全例ジギタールしてから挿入する。尿道損傷を疑うときは尿道造影もする。
    それ以外はSSで挿入する
  • 指が動かないときは神経損傷と腱断裂の可能性がある
  • ひだり小指はできるだけ再建する(社会的理由)
  • 開放骨折はガスチロIIIaまでは一期的なORIFも許容
  • 開放骨折のGolden Time 6時間以内に洗浄デブリを行う

4-4 IVR

頭部外傷がある場合、線溶系亢進→出血を助長させるため頭部外傷を合併する場合はEV(-)であっても予防的TAE併施することを考慮する(ex;骨盤骨折+頭部外傷、脾損傷+頭部外傷)
TAEのデメリット→すでに形成された腹腔内血腫はドレナージできない
肝損傷の場合は胆汁漏、腎損傷の場合は腎盂尿管損傷の可能性がある


骨盤骨折TAE 

道具 
4Frシース、4Frコブラ(+シェファード)、セレスキュー →IIA本幹塞栓のときはこれだけ
カーネリアンER (2.2/2.9Fr 0.021inch135㎝)→選択的塞栓の場合に使用 ハイフローマイクロカテ、アサヒマイスター(マイクロGW)

  1. 対側コブラ、同側シェファードが基本
  2. EIA/IIA分岐部は対側斜位(右ならLAO)で観察しやすくなる(若年者ほど有用)
  3. 上腕動脈穿刺は左右CIAアプローチ容易(100㎝以上の親カテが必要)
  4. IIA根部まで塞栓する(一側につきセレスキュー1~2枚使用可)
  5. IIAが造影されなくなるまで塞栓する(不十分だとすぐ再疎通する)
  6. 最後にPanAortographyを撮像する(10mL/sec×3秒)
  7. 殿筋壊死は約5%、死亡率60%。リスクとしてTAEやカテコラミン、コイル塞栓
  8. GS塞栓作成時のポンピング:親カテ5回、子カテ20回(親カテ根部塞栓はカッティング不要)

脾損傷

  • 脾仮性動脈瘤は遅発性破裂ありうるので基本的に塞栓の適応(肝臓は自然治癒ありうる)
  • セレスキューで脾門部から塞栓、先にLGEAをコイル塞栓(SGAはそのままでOK)
  • 脾門部からセレスキューで塞栓してもある程度脾温存可能
  • コイル塞栓→終動脈でもisolationが基本
  • ショックの場合はNBCAを用いて迅速に塞栓する(本来なら開腹)

腎損傷

  • 腎動脈は終動脈のため、根部からセレスキューで塞栓可能
  • バイタルに余裕があれば、選択的塞栓も可能
  • 腎動脈の塞栓にはコブラが良い(さらに安定性が高いものとして5Frガイディングシース(長さ50㎝)で150㎝のラジフォーカスとコブラを内筒として4Frシースを5Frガイディングシースに交換しハードタイプの0.035ワイヤに交換して右腎動脈内にガイディングシースを留置した。還流システムを使用し親カテなしでHeadway2マーカーとTARGET電離式コイルで塞栓術を施行した)
  • 腎動脈造影は4~5mL/hr、1~2秒間。手押しでもよい。

肋間動脈・腰動脈

  1. シェファードで選択しマイクロカテで塞栓する
  2. 塞栓物質は①コイル②GS③NBCA
  3. Ev+の場合はその上下2本も造影する
  4. DyCTでEv‐でも、後腹膜血腫がある場合は直接造影でEv+のことがある
  5. Adamkiewicz動脈は第8肋間動脈~第1腰動脈のレベルから分岐、左側が72%

ヒストアクリル(NBCA)

  1. 基本的にマイクロカテから使用するDCIR用薬剤、凝固障害時にも有効
  2. ヒストアクリル0.5mL(1A)+リピオドール2.5mL=Total 3mL(ポンピングは不要)
  3. マイクロカテから5%ブドウ糖でカテ内と塞栓予定領域をフラッシュ後、NBCA注入
  4. 注入後は6~7秒程度で一気に抜去する(すぐにカテ内をフラッシュすれば2-3回使用可)
  5. IIA根部からの塞栓の場合は先にセレスキューで塞栓しておく(→中枢側塞栓の予防)
  6. 流速評価のためにリピオドール単体を流すこともある

REBOA(レスキューバルーンER 7Fr、東海メディカル)

  1. 蘇生の初期段階ではZone I(横隔膜上)でインフレーションする
  2. 生食10mL→直径20㎜、14mL→直径25mm、20mL→30㎜に拡張する(20mL以下)
  3. 骨盤骨折でショックなら迷わず両側4Frシース挿入する
  4. J型ワイヤーをシースから鎖骨の長さだけ(胸壁にあてて測る)入れる
  5. バルーンカテは50㎝くらいまで入れてよい、レントゲンでZoneIであることを確認
  6. REBOAを入れたら右手にAline挿入する
  7. Zone IIIのインフレーションは必ず透視下で(CIA内だと破裂する危険あり)
  8. REBOAシースを4Frカテのシースとして代用可能
  9. REBOAは7Fr、抜去時は30-40分圧迫止血

4-5 OAM

  1. アイソレーションバッグを斜めに切る
  2. 18G針で穴をたくさんあける
  3. 腹腔内にいれる
  4. デュープルドレーンを皮下に左右から2本逆方向(1本は上から1本は下から)に挿入する
  5. アイオバンのようなテープを貼ってメラ―50㎝H2Oで持続吸引を行う
  6. 24~48時間後に2nd look operationを行う
  7. 閉鎖ができない場合は再びOAMとする
  8. 閉創するときはVAC療法がよい

    ※日医北総式はタオルの両面にアイオバンを貼って針穴をあけたもので腸管を覆う方法
    問題点は腸管が見えない

4-6 特殊外傷・合併症

妊婦外傷

  • 女性をみたら妊娠を疑う
  • PSでは胸部のみ撮像(骨盤は遮蔽)し、CTは必要部位(頭部から胸部まで)のみ
  • 最終月経から4週以降でないと妊娠反応は陽性とならない
  • 頻回のFASTでFollowする
  • 妊娠中(とくに初期<4か月)は腹部骨盤CTは原則禁忌でMRIで精査することもある
  • ヨード造影剤、ワクチン、NSAIDSは禁忌
  • セフェム系、アセトアミノフェンも使用可

爆傷

  • 通常のPS,SSに加えて肺、鼓膜、熱傷、腸管に留意する

重症頭部外傷後

  • 挿管を要するような重症頭部外傷の場合、挿管後は鎮静・鎮痛を行いfollowは3時間毎の頭部CTにて行う
  • 外傷急性期に新しい所見が出現した場合にはCT再検する
  • 痙性麻痺に対してバクロフェン投与
  • バクロフェン髄注療法(ITB療法)もある→腹部にリザーバを留置する

脂肪塞栓

  • 長管骨骨折の90%に潜在的に合併
  • 心肺蘇生術後にも生じうる
  • 受傷後24-72時間後に発症
  • 脂肪は血中から肺に流入することが多いが、脳や皮膚、眼球や心臓にも流入する
  • 急性呼吸不全、中枢神経障害、点状出血がtrias
  • 死亡率10%未満

肝コンパートメント症候群 HCS

  • CTで巨大被膜下血腫
  • 採血でAST異常高値
  • TAEで門脈の逆流(右肝→左肝、遠肝性逆流)
  • 治療は経皮的ドレナージ

4-7 外傷における輸血療法

輸血療法

Rhは不一致でも大丈夫。唯一例外はRh-妊娠可能女性に対するRh+輸血
異型輸血をする場合はRBCはO型Rh+を使用、FFPと血小板はAB型Rh+を使用する

4-8 骨折治療

  • 骨折治療の基本は①整復, ②固定,③リハビリテーション
  • 腫脹が増大すると整復が困難になるため,受傷から早 期に整復することが望ましい.
  • 小児の骨幹部骨折では,骨癒合が早く自家矯正能が優れており完全な整復にこだわる必要はないが回旋変形はほとんど矯正されないので回旋転位を残さない.
  • 整復には①徒手整復②牽引療法③観血的整復がある
  • 牽引療法の目的
    ①整復困難な骨折に持続的牽引力を掛け整復し,解剖学的位置を保持するため
    ②手術療法の前段階として整復・短縮予防・除痛・安静のため
    ③小児で徒手整復後に整復位を保持するため
    仮骨が形成さ れたらギプス固定などの外固定に変更する.臼蓋骨折で行うことがある
  • 固定の方法
    ①外固定:シーネやギプス、キャスト
    ②内固定
    ③創外固定

4-9 低体温症

  • 定義:深部体温が35°C以下を低体温と定義する
  • 低体温の程度分類: 軽度32-35°C 中等度28-32°C 高度<28°C
  • 32度以下で意識障害、28度以下では死亡
仙台オープン病院ERホームページより抜粋
仙台オープン病院ERホームページより抜粋
仙台オープン病院ERホームページより抜粋
仙台オープン病院ERホームページより抜粋
仙台オープン病院ERホームページより抜粋

4-10 ERT/RT

  • 第5肋間開胸(乳頭下縁、女性は乳房下縁)で開胸
  • 大動脈クロスクランプ
  • 横隔神経の腹側で心嚢切開
  • 開胸心臓マッサージ
  • 右側からトロッカー挿入することも合わせて迅速に施行する

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