心電図、不整脈と虚血性心疾患

目次

プライマリケアのための心電図:総論

  • 心電図が最も威力を発揮する場面は「不整脈」の診断
  • STEMIにおいては発症から再灌流までの時間をいかに短くするかがとても重要で、最初の医療者のコンタクトから再灌流までは120分以内、病院のドアから再灌流までの時間(door to balloon time)は90分以内が推奨
  • NSTEMIは冠動脈の不完全閉塞や一過性の閉塞が自然に再灌流した場合、完全閉塞でも良好な側副血行路からの残存血流が存在する場合など、心臓の壁の一部に心筋虚血が生じている状態
  • 虚血はNSTEACSがあるため、心電図では診断できないACSが存在する
    →ACSの診断は「胸部症状」「バイオマーカーの上昇」「心電図虚血所見」の組み合わせで診断
  • 虚血は常に内膜側から生じる→内膜側のみならST低下、貫壁性ならST上昇
  • 弁膜症や心筋症など心臓の構造的な異常は心電図ではわかりにくい→心エコーが勝る
  • 心筋梗塞→LAD狭窄が最も多い
    →急性前壁梗塞ではLADの閉塞部位が近位部か遠位部かを診断することが重症度評価に重要!!!
  • 電気軸
  • 移行帯
  • 狭心症
  • VT
  • 変更伝導
  • 脚ブロック
  • 房室ブロック
  • 急な右室負荷(肺塞栓など)で右軸偏位を起こす

心電図の取り方と誘導

言葉の定義

  • PQ時間:電気が洞結節から房室結節まで流れる時間(正常0.12-0.2s)
  • R波:
    QRS波形は左壁の興奮電動だけ考えればよい(右室の興奮は波形に関与しない)
    肥大によりRは増高する。肥大した心筋は虚血を伴い典型的な左室肥大は①R波増高に、②虚血性ST-T変化を伴うようになる
  • T波:
    収縮した心臓がもとに戻るときに(弛緩)できる波
    心肥大や強い心筋障害があると、スムーズに弛緩できないためにR波だけでなくT波にも異常が出る
    このときにR波が重なるとRonT→致死的不整脈が誘発される
  • ST上昇:
  • ST低下:
    右上がりのST低下は頻脈などで生じる正常心電図
    水平または右下がりのST低下は虚血性変化
  • wideQRS:QRS波の幅が大きく変化するのは、心室の中の電気の流れが悪くなり、時間が長くかかるとき
    ①脚ブロック②心筋虚血(心室内伝導障害)③WPW症候群の3つを考える。左脚ブロックとも右脚ブロックともいえないような、特徴的な心電図を心室内伝導障害と呼び、心筋梗塞に近い高度の心筋虚血を示している。
  • QT時間:
    心臓の電気的収縮時間
  • QT延長:
    QT延長は、再分極(T波)が遅れて心臓の興奮が延長していることを示す
    QTが延長すると心室細動という重篤な不整脈が起こりやすく、突然死の原因になる
    QT時間の評価は、正確には心拍数で補正されたQTc時間で行う
    学童検診ではQTc時間が450msecを超えると異常

P波の異常

  • 正常P波は,心房の興奮過程を示しまず右房が興奮した後に左房が興奮するため、P波の開始点は右房の興奮の始まりを示し,P波の前3分の2が右房の興奮を,後ろ3分の2が左房の興奮を示し,両者が融合したものがP波として示される
  • P波の幅の正常値は 0.06 <P≦ 0.10 秒,高さは< 0.25 mV
  • 「Ⅱ誘導」→常に上向き、と「V1誘導」→左房負荷では2相性、で評価する
  • P波は心房にある心臓のスイッチ
    P波がなくてR波が出ていれば、心房内のスイッチが入らなくて房室結節や心室から収縮の刺激が始まったことが分かり、洞結節に異常があることがわかる
  • P波の形が変化している場合、スイッチは正しく入っていても、心房の中でスイッチの場所が移動していたり、弁膜症などで心房が大きくなっていることが推測される

PQ時間の異常

  • PQ時間は電気が洞結節から房室結節まで流れる時間(0.12~0.20s)
  • PQ時間が短縮:バイパス経路がある(→WPW症候群)
  • 房室結節は本来,1本の通り道であるがなかには通路の途中が分岐し二重伝導路(fast pathwayとslow pathway)となっていることがある(健常者の4人に1認といわれている)
https://informa.medilink-study.com/web-informa/post22900.html/

左室肥大

  • 典型的な左室肥大では、肥大した心筋は血流不足になるため(心筋虚血)、ST降下やT波陰性化を伴う
  • 著明な左室肥大を起こす肥大型心筋症では、ST降下と巨大陰性T波が特徴
  • 強い左室肥大では、心筋虚血と同じようにST降下やT波の変化が起こるため、まとめてST-T変化という

電気軸

早期再分極(early repolarization syndrome;ERS)

早期再分極に見られる心電図所見の特徴
J点の上昇あるいはJ波の存在

  • J点とは
    →QRS波とST部分の境界点
  • J波とは
    →QRS終末部に見られるノッチもしくはスラーの総称
J点の基線からの高さ,あるいは J波の振幅が 0.1 mV以上を有意とする

「J点上昇」と「J波」は出現誘導や頻度,さらに男女の比率も異なっている
両者は異なる機序で生じている可能性があり,早期再分極所見として同一視するのは問題という考えもある

  • 頻度:
    • 早期再分極所見あるいは J波は,報告者によりまちまちであるが,一般人口の 5~ 24%
  • 好発誘導:
    • J波の出現が最も多い誘導は,男女ともに下壁誘導(Ⅱ,Ⅲ,aVF)、次いで左側胸部誘導(V4-6)
  • 特発性心室細動症例に関連した J波(J波症候群)
    • Brugada型波形を示さない特発性心室細動例の31%にERSを伴うとする報告がある
    • 日内変動や日差変動を呈することが知られている
    • J波は特に自律神経や心拍数の影響を受け,その振幅は心拍数の上昇により減高し,心拍数の低下によって増高する

心電図各論

心房細動

塞栓リスクと同時に出血リスクも評価する

  • HAS-BLEDスコア
    出血リスクの層別化には、2010年の欧州心臓病学会ガイドラインに採用されたHAS-BLEDスコアが、日本人でも利用できるがCHADS2スコアとHAS-BLEDスコアの両方に高血圧、高齢、脳卒中の3つの因子が存在し、塞栓症を予防したい患者は出血のリスクも高いというジレンマがある
    • 同スコア0点を低リスク(年間の重大な出血発症リスクが1%)
    • 1~2点を中等度リスク(同2~4%)
    • 3点以上を高リスク(同4~6%)と評価する
弁膜症性心房細動とは?

弁膜症性心房細動の定義は、リウマチ性の僧帽弁狭窄症あるいは人工弁置換術を行った心房細動→ワーファリン
それ以外はすべて非弁膜症性心房細動→脳梗塞発症リスクの評価方法CHADS2スコア→DOACが第一選択
大動脈弁疾患、あるいは僧帽弁閉鎖不全であれば、非弁膜症性の定義に当てはまる

  • CHADS2スコア
    簡便であるが非弁膜症性心房細動の大半はCHADS2スコア1点以下の患者さんであり、リスクとしては低いものの絶対数が多いため脳梗塞をきたす患者数としてはかなりの割合を占めている。
    CHADS2スコアで用いられる危険因子以外にも、心筋症、年齢(65-74歳)、心筋梗塞の既往、大動脈プラーク、血管疾患、性別(女性)等が報告されていることから、CHADS2スコアだけでは脳梗塞のリスクを評価できない年齢(65-74歳)、心筋梗塞の既往などの血管疾患合併例、女性(器質的心疾患を有さない65歳未満の女性は計算されない)をそれぞれ1点とし、75歳以上の年齢ではリスクがさらに高まることを考慮して2点として計算されるCHA2DS2-VAScスコアが提唱されたが、わが国の2020年改訂版「不整脈薬物治療ガイドライン」では依然としてCHADS2スコアが用いられている
  • CHADS2スコアが1点以上の場合、脳梗塞を発症するリスクが高い
    • 低リスク:0点(年間脳梗塞発症率1.9%)
    • 中等度リスク:1点(同2.8%)
    • 高リスク:2点以上(同4.0%以上)
  • 「不整脈薬物治療ガイドライン」では、出血リスクをHAS-BLEDスコアで評価することがクラスIで推奨された
CHA2DS2-VAScスコア

洞不全症候群

  • 洞結節細胞群は自動的に電気的興奮を発生することのできる能力(自動能)を有しており、洞結節および洞結節周辺部組織の機能的もしくは器質的障害により、洞自動能や房室伝導能の低下が生じて、原因不明の持続性洞性徐脈、洞停止又は洞房ブロック、徐脈頻脈症候群の3つのタイプの徐脈性不整脈を呈す
  • 通常の心拍数は1分間に60回~100回程度ですが、洞不全症候群では運動時や発熱時などの心拍数が上昇する状態においても十分な心拍数の上昇が認められない
  • 洞性徐脈:
    心房興奮を反映するP波が規則正しい間隔で現れる数が少ないもの
  • 洞停止(洞房ブロック):
    P波が突然現れなくなる場合
  • 徐脈頻脈症候群:
    心房細動や心房粗動、発作性上室性頻拍などの様々な頻脈性上室性不整脈を合併し、その頻脈が停止した後に洞停止を生じる。徐脈頻脈症候群は洞性徐脈性不整脈単独例に比べ、頻脈停止後に高度の心停止をきたして失神の原因となることが多く、重症な洞不全症候群として位置づけられる。

ペースメーカーの適応

失神、痙攣、眼前暗黒感、めまい、息切れ、易疲労感などの症状あるいは心不全がある徐脈性不整脈(洞不全症候群、Ⅱ度~Ⅲ度の房室ブロック、徐脈性心房細動)が、ペースメーカーの適応となります。Ⅱ度~Ⅲ度の房室ブロックでは、無症状でも適応になることがある

  • 最近ではMRI対応ペースメーカーもある
  • 無症候性の徐脈性心房細動の場合、一応5秒以上(大きなマスで25マス、3秒=15マスという意見もあるが、対象症例が多すぎるという意見も)というのが一つの目安
  • 徐脈性の疾患の場合、ペースメーカーを入れてそのような症状が完全になくなれば、専門医の許可のもと運転ができるようになる

徐脈性不整脈に対する薬物療法

  • シロスタゾール、イソプレナリン、テオフィリンは有害事象として頻脈があり、徐脈に使用できる

右脚ブロック

  • 右脚ブロックだけでは右軸偏位とはならない(軸はあくまで左室壁の電気の流れを反映する!)
  • 実臨床ではCRBBB+心肥大でST変化を伴うwideQRSに見えることがあるが、心エコーを行えば心肥大もasynergyも一発で評価ができ、その場でACSを否定できる。

左脚ブロック

  • 左脚後枝は太く、通常単独では障害されない
  • 左脚前枝ブロック→高度左軸偏位(図で青)
  • 左脚後枝ブロック→高度右軸変異(図で紫)
  • V6にseptalqがない
  • 左脚ブロックでは、電気は左軸偏位になる
  • https://www.youtube.com/watch?v=RDJgDZWzdmw
https://twitter.com/ecgkuma/status/1445507868304674821

2枝・3枝ブロック

  • 束枝ブロックは他の伝導障害と併存することがあり,RBBBは左脚前枝または後枝ブロックと併存することがあり(2枝ブロック),左脚前枝または後枝ブロックはRBBBおよび第1度房室ブロックと併存することがある(不正確に3枝ブロックと呼ばれているが,第1度ブロックは通常,房室結節起源である)。
  • 3枝ブロックとは,右脚ブロックと左脚前枝および左脚後枝の交代性ブロックの併存,または左脚および右脚の交代性ブロックを指す。心筋梗塞後の2枝または3枝ブロックの存在は,広範囲の心筋損傷を示唆する。2枝ブロックは,間欠性の第2度または第3度房室ブロックが存在しない限り,直接の治療を必要としない。真の3枝ブロックには,緊急のペーシングとその後の恒久的ペーシングが必要である。
  • QRS幅が延長するが(120msecを超える),QRSパターンがLBBBまたはRBBBに典型的なものでない場合は,非特異的心室内伝導障害と診断する。プルキンエ線維より末梢側で伝導遅延が生じる可能性もあり,これは心筋細胞間の遅い伝導に起因する

WPW症候群

  • 通常は心房心室間は房室結節以外は電気的に絶縁されているが発生の段階でアポトーシスがうまく進行せずに
    伝導路が複数形成されてしまう状態
  • 非発作時の心電図では容易に診断可能(デルタ波と)
  • 潜在性WPW症候群

頻脈性不整脈

頻脈性不整脈を見たら,stableかunstableか即座に判断を判断
→unstableなら即座に電気的除細動(自己脈があるため全例カルディオバージョンを選択)
→stableなら原因精査(電解質異常やACS合併など)と心電図の診断

頻脈性不整脈の分類は2×2表に大分類
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/3481_04

SVT/PSVT

まずはmodified Valsalva法とreverse Valsalva法を試す
→無効の場合は薬物的除細動
→無効の場合は電気的除細動(カルディオバージョン)

  • AT、AVNRT、AVRT(ORT:orthodromic re-entry tachycardia)の3種類を鑑別する
  • ATP製剤使用する前に心エコーで低心機能を除外しておく→心停止する
  • PSVTであれば致命的になることはほとんどないため,停止後は多くは安全に帰宅可能
  • 帰宅させる前に,特に急性冠症候群(ACS)でないかどうか,洞調律復帰後の心電図波形の評価は忘れない!!!
  • 帰宅時には発作時の心電図を本人に渡す→別の医療機関受診時の診療の指標となり得る
  • AVNRT
    • 自然停止する
  • 治療法:
    • modified Valsalva法
      • 従来のValsalva法である息こらえはあまり効果がなく,洞調律復帰率は5~20%程度
      • modified Valsalva法は50%程度の洞調律復帰率が期待できる
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/3481_04
  • reverse Valsalva法
    • 50%程度の洞調律復帰率
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/3481_04
  • 薬物的除細動:
    • ATPの急速静注:第一選択
      • ATPは気管支攣縮作用があるので,気管支喘息は禁忌
      • マイナーな副作用:顔面紅潮や呼吸困難,頭痛,嘔気嘔吐,不安や恐怖心の出現など
      • 投与方法:
        • ATPは5~10 mgを急速静注し,効果がなければ最大20 mgまで使用可能
        • 急速投与が重要→点滴刺入部はなるべく中枢寄りに、三方活栓を操作してATPを生食で急速に後押しする(フラッシュ用生食20mLをあらかじめ接続しておく)
    • Ca拮抗薬:第二選択
      • ATPでも止まらない頑固なPSVTには,Ca拮抗薬を使用
      • 房室伝導を抑制する目的で,ベラパミルやジルチアゼムを投与する
      • PSVT停止率はATPとおおむね同等
      • 実際の投与方法:
        • ワソラン(ベラパミル)1A=5㎎/5mL
          • ベラパミル1A(=5mg)を5分かけて点滴
        • ヘルベッサー(ジルチアゼム)1管=10㎎
          • 1管(=10 mg)を3分かけて投与する
          • 陰性変力作用の弱いジルチアゼムを選択する方がよりベター
        • ベラパミルは1 mg/分,ジルチアゼムは2.5 mg/分の速度で投与することで,効果はそのままで低血圧発生率を1%未満に抑えられる
カルディオバージョンについて
  • カルディオバージョン/電気的除細動を行うと,リエントリーに起因する頻拍性不整脈を極めて効果的に停止させることができる
  • RonTは催VF作用があり危険なため、心電図同期でR波の直後に放電するようになっている
  • エネルギー量:
    • 除細動:2相性150Jで固定されている
    • カルディオバージョン:疾患ごとに推奨されるエネルギー量が異なる
  • カルディオバージョンの合併症:
    • 通常軽微であり,具体的には心房および心室性期外収縮や筋肉痛などがある
    • 頻度はより低いが,左室機能が正常下限の場合や複数回のショックが用いられた場合には,カルディオバージョンは心筋細胞障害や電気収縮解離の発生頻度を高める可能性がより高くなる
  • 実際のやり方
    • 鎮静に伴う誤嚥予防の観点から絶食時に行うことが望ましい
    • パッドを貼り除細動器で心電図をモニタリングする
    • 同期ONにすると除細動器のモニタ上のR波に認識したサインが表示され始める
    • エネルギー量を設定する→疾患ごとに異なる
    • 同期短時間の全身麻酔か鎮痛薬および鎮静薬の静注
      • ラボナール2〜4mL(2.5%溶液で50〜100mg):喘息には禁忌
      • フェンタニル1μg/kgに続いてミダゾラム1~2mg,2分毎,最大5mg
ラボナールについて
  • 300㎎(溶解液12mL)と500㎎製剤(溶解液20mL)があるが、300㎎で十分
  • 添付溶解液で2.5%水溶液(25 mg/mL)に調整して使用する→調整後の濃度は300でも500でも同じ
  • 投与量:
    • 最初に2~3 mL(2.5%水溶液で50~75 mg)を10~15秒位の速度で注入後30秒間麻酔の程度,患者の全身状態を観察する.
    • さらに必要ならば2~3 mLを同速度で注入して適度な鎮静を得る
    • 2~3mLの追加投与でで10~15分の鎮静追加を得る
    • 最初に2~4 mL(2.5%溶液で50~100 mg)を注入(Slow静注で可)して患者の全身状態,抑制状態などを観察し,その感受性から追加量を決定
    • カルディオバージョンの麻酔として使用する場合は50㎎程度~投与開始して適宜追加する(内視鏡のミダゾラム鎮静と同様)
  • ラボナール(チオペンタール):
    • カルディオバージョンの場合は5㎎とごく少量
      (麻酔前投薬として使用する場合は50㎎程度、精神科領域(電気痙攣療法)では300㎎も使用)

心房粗動・心房頻拍

内膜下虚血、完璧性虚血

見逃してはいけない心電図

LMT主幹部閉塞

  • LMT主幹部閉塞
    • aVRでのST上昇(+下壁誘導ST低下=reciprocal change)
      • LV基部完璧性梗塞
      • LV全体の内膜下虚血によるST低下のミラーイメージ(=reciprocal change)

        前胸部誘導のST偏位によりLAD閉塞部位を判別することは難しいとされている。近位部閉塞例では,左室心基部寄りに貫壁性虚血を生じるため傷害電流ベクトルは右上方へと向かい,このため左室心基部に面するaVR誘導のSTは上昇し,これに対する対側性変化として下壁誘導のSTは低下する。一方,遠位部閉塞例では,傷害電流ベクトルは前方に向かうため下壁誘導に対側性変化によるST低下は生じない。急性前壁梗塞では肢誘導のST偏位が重要である。
  • 心筋梗塞でショックになるのはLMT病変、LAD近位部病変→ただちに3次医療機関への搬送が必要
LMT主幹部病変での心電図変化の特徴

LM閉塞例では灌流域が非常に大きいにもかかわらず前胸部誘導のST上昇はむしろ軽度な例やST低下を認める例もあり注意を要する。これは左室前壁(LAD領域)と左室後壁(左回旋枝領域)のST上昇が同時に存在し互いに相殺し合うためで,左室後壁のST上昇が高度である場合にはむしろ前胸部誘導のSTは低下し,より重症例である。また,広範で高度な心筋虚血に起因する心室内伝導障害を反映しQRS幅が増大するのが特徴である(ネット記事より)。

側壁梗塞

  • 側壁梗塞では、Ⅰ、aVLおよび側胸部誘導でST上昇
  • V1は右室、V2は中隔、V3-4が左室前壁、V5-6が左室側壁を投影する

右室梗塞

  • 右室梗塞は単独では起こりづらく通常、下壁梗塞を伴う
  • 右室梗塞(+下壁梗塞)ではⅡ、Ⅲ、aVf(+V1も)に変化が出やすい
  • 下壁梗塞を見た場合、右室梗塞の合併にも注意が必要→下壁梗塞では右側胸部誘導を追加する
  • 嘔気、嘔吐、下痢といった腹部症状はAMIとくに下壁梗塞でしばしば見られ、右冠動脈領域の疾患においてBezold-Jarisch反射として知られている副交感神経緊張に由来する。

下壁梗塞

  • 下壁梗塞は責任病変が右冠動脈、回旋枝いずれの場合もある
  • 下壁梗塞では、右室虚血を合併した場合、対側性変化としての前胸部誘導のST降下は減弱する。これは、右室虚血が右側胸部誘導だけでなく、V1誘導を中心とした前胸部誘導のST部分を上昇させる方向に働くため。
  • 下壁梗塞による対側性変化はaVLに最もよく反映される。左回旋枝による下壁梗塞の場合は、aVL誘導のST降下が側壁の虚血によるST上昇に相殺されますが、その場合は前胸部誘導に対側性変化が現れるため、診断は難しくない。

後壁梗塞

  • 背部誘導(V7・V8・V9)を追加する

ブルガダ症候群

  • 右室流出路付近に原因がある
  • 若い男性に多い
  • 第3肋間でV1B、V2Bを追加するとより鮮明化する

Wide QRS tachycardia

Wide QRS tachycardiaでは「否定されるまで心室頻拍VTを疑え」が原則
  • もともと脚ブロックやWPWを有する患者が、洞性頻脈や発作性上室性頻拍症、頻脈性心房粗・細動を生じた場合(220/minを超える頻拍では1:1伝導の心房粗動の存在を疑います)
  • 変行伝導を伴う上室性頻拍の場合
  • https://miyake-naika.com/01sindan/wide-qrs.html#gsc.tab=0

正常時に伝導障害はなくても、上室性頻拍の際に機能的不応期による右脚ブロックを合併する場合があります。
心拍数がある一定数より速くなると一過性に右脚ブロック、右軸偏位(下方軸)を来しやすくなりますが、これは右脚の不応期が左脚より長いために起こる機能的ブロックで病的意義はありません。

VT

  • 定義:連続で3拍以上にわたり心拍数が120/分以上となる状態
  • QRS幅の広い頻拍(QRS ≥ 0.12秒)は,VTでないことが証明されるまでは,全てVTとみなすべき
  • 房室解離があればVT
  • ほとんどのVT患者は有意な心疾患(特に 心筋梗塞の既往または 心筋症)を有する
  • 心室頻拍は単形性と多形性に,また非持続性と持続性に分類される
    • 単形性VT:単一の異常興奮起源またはリエントリー伝導路に起因し,同じ形態のQRS波が規則的に生じる
    • 多形性VT:いくつかの興奮起源または伝導路に起因し,そのためQRS波は不規則で,形態が変化する
    • 非持続性VT(NSVT):持続時間30秒未満
    • 持続性VT(sustained VT):30秒以上継続するか,血行動態の破綻により30秒未満で停止する
  • 予後:
    • 基礎心疾患のみられない正常心機能症例 の非持続性心室頻拍は生命予後に関与しない→治療対象外
    • 基礎心疾患があり(日本では30%が心筋梗塞、70%が心筋梗塞以外の心疾患)心機能が中等度以上(EF40%~35%以下)に低下している症例の非持続性心室頻拍は予後不良

肥大型心筋症(指定難病58)

  • 肥大型心筋症の診療に関するガイドライン(日本循環器学会)
  • 高血圧や弁膜症などの心肥大を起こす明らかなほかの原因がないのに、左室に異常な肥大を起こす疾患
  • 心筋の不均一な肥大と拡張不全を特徴とする心筋症で、左室内圧格差の有無(HOCM→HCMの25%程度、それ以外か)が重要だが、左室内圧較差は固定された値ではなく病状の変化によりその値を大きく変化させることが特徴
  • 肥大型心筋症患者の20%以上に心筋虚血を合併している
  • 頻度:心エコースクリーニングでは、一般人口の1/500〜1/1000人において認められる
  • 家族歴:HCM患者の約半数は常染色体優性遺伝形式に従う明らかな家族歴を認める、突然死の家族歴も聴取する
  • 症状:不整脈や心原性塞栓、突然死の原因となる。自覚症状がほとんどない症例も多く存在するが胸痛,胸部絞扼感という狭心症との鑑別が必要な症例,また,めまいや失神などの脳症状を強く訴える症例も多い
  • 心音:巨大IV音(心尖部で触知可能)を聴取し,また多くの患者でIII音を聴取
  • 心電図:①R波の高電位と陰性T波の存在は典型的な左室肥大所見の反映、その他の所見として②QT 時間の延長、②胸部誘導でR/T比の減少(T波増高)、③II,III,aVF における q ~ Q 波など
  • 心エコー:HCMに必須の検査
    • 心室中隔厚/左 室 後 壁 厚 比 > 1.3とASH (asymmetric septal hypertrophy)
  • 予後:心不全発症後の予後はHCM(38か月)<<<DCM(225か月)でHCMで圧倒的に予後不良
  • 治療:
    • βB:左室拡張障害の改善効果は乏しいこと,また心肥大退縮効果がなく,心筋障害進展の抑制効果(いわゆる拡張相への移行の抑制)は極めて乏しいことから長期の生命予後の改善効果は乏しい
    • Ca拮抗薬:ベラパミル、ジルチアゼムが用いられる。細胞内Ca2+濃度の上昇がHCM患者の左室拡張障害に強く関与していること,また細胞内Ca2+濃度の上昇そのものが心肥大の程度とも密接に関連している。

虚血性心疾患・冠動脈疾患

MINOCAとINOCA

INOCA:
狭心症状を有し非侵襲的検査で心筋虚血所見が認められるにもかかわらず、冠動脈造影検査で心外膜冠動脈に狭窄病変を認めない疾患。INOCAには主に冠攣縮微小血管障害の2つの病態が関与している。

MINOCA:
心筋虚血に伴う心筋逸脱酵素上昇などから心筋梗塞と診断されるにもかかわらず、冠動脈に閉塞性病変が認められない疾患。女性に多くNSTEMI(non-ST elevation myocardial infarction)の発症形式をとる特徴がある。MINOCAの原因は多岐にわたり(プラーク破綻・冠攣縮・冠動脈解離など)、個々の症例における最適な治療戦略を構築するためにその原因を明らかにすることが必要である。

冠攣縮性狭心症

治療の基本は「危険因子の是正」と「薬物治療」である。

冠攣縮の発作時には,ニトログリセリンの舌下錠もしくはスプレーの口腔内噴霧が有効である。

  • 危険因子:
    • 喫煙は明らかな危険因子であり,禁煙は必須である
    • 飲酒については,大量飲酒後数時間経過してから発作が起こることが多いため,節酒する必要がある
    • 有酸素運動が,血管内皮機能,酸化ストレスや炎症の改善作用を介して発作を抑制することが報告されている。しかし,早朝の運動は冠攣縮誘発の恐れがあるため,午後に行うなどの指導が必要である。
  • 薬物治療:
    • Ca拮抗薬:薬物治療の第一選択薬
      血管平滑筋細胞へのCa2+の流入を抑制することで冠攣縮を抑制する。
      夜間~早朝にかけて冠攣縮発作を認める場合が多いため,夕食後あるいは就寝前投与が推奨されるが,症例により生活リズムが異なるため,発作時間帯に合わせた処方設計を心がける。
      治療に用いられるCa拮抗薬にはベンゾジアゼピン系やジヒドロピリジン系があり,単剤で著効しない場合には複数を組み合わせて用いる。
    • ニコランジル:
      選択的な冠動脈拡張作用と抗冠攣縮作用を持つ薬剤で,Ca拮抗薬と異なる薬理作用であるため,Ca拮抗薬抵抗性の症例に併用する。
    • スタチン:
      脂質改善効果のほか,内皮機能改善作用,抗炎症作用,Rhoキナーゼ抑制作用を有し,冠攣縮を抑制する効果が示されている。

【治療上の一般的注意&禁忌】

β遮断薬は心筋の酸素需要を低下させるため,器質的狭窄合併例にはよい適応となるが,β遮断薬の単独投与は,相対的なα受容体刺激により血管収縮を促し冠攣縮を惹起する可能性があるため,長時間作用型Ca拮抗薬を併用する。

また,硝酸薬の血中濃度が一定であると耐性が生じやすいので,耐性を避けるためには休薬時間を置くことが重要である。発作の出現状況を詳細に聴取し,冠攣縮の活動性が最も高い時間帯に硝酸薬の十分な血中濃度が維持できるように,投与時刻や投与量を決定する。

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