循環器疾患

目次

循環器内科

心臓・血管系に関するガイドラインだけで50個もある(日本循環器学会HPより)!

日本人における死因の第2位は心疾患( 14.8%)
日本における心不全患者は2020 年には 120 万人に達する

心筋梗塞

Trop-T定性迅速テスト(検出感度>0.1ng/mL)
ラインが薄くても陽性判定(TropT陽性化までACS発症から3~5時間必要)
定性検査陽性の場合、心筋トロポニンTの濃度が0.1 ng/mL以上であり心筋傷害の存在を示す

陰性の場合、心筋トロポニンTの濃度が 0.1 ng/mL 未満であり、心筋傷害が起きていないと考えるが、心筋卜ロポニンTの遊出動態により、梗塞発症の初期では陰性を示すことがあり、心筋梗塞の疑いがあるときには、時間をおいて再検査することを検討


高感度Trop-T定量検査(検出感度0.014ng/mL=定性の約1/10まで検出可能) 112点

急性心筋梗塞におけるカットオフ値は、0.100ng/mL以下(定性検査と同様)

急性心筋梗塞、心筋炎、狭心症で陽性を示す

Trop-Tは正常化するまでに1~2週間かかる

数値の絶対値がけっこう重要で、軽度上昇ならACSではないと専門医が判断していた(少なくとも緊急PCI適応はないと判断したのだろう)

Trop-Tは腎機能の影響を受けるが、CKDでもTrop-T陰性の場合はACS陰性と判断してよい(逆は言えない)

→在宅医療現場では心電図とTropT迅速キットは導入したいところ

トロポニンTについて

平滑筋には存在せず,しかも構造が心筋と骨格筋とで異なるため,両者を明確に識別することが可能となり,現在最も特異的な心筋障害のマーカーと考えられている

心筋炎, 心筋梗塞, 腎不全で高値となる

  • STBT(症状から治療までの時間)<90分が予後良好
  • ST上昇がないACSもある(NSTE-ACS):LCXやLMT、多枝病変の場合など→TTEやTropTなども
  • 胸痛や背部痛、心電図異常の原因として大動脈解離や肺塞栓が鑑別にあがる→造影CTで鑑別
ACSとは?

動脈硬化病変“プラーク”は、中心に脂質コアを含み、表面は線維性被膜で覆われている。心筋梗塞、不安定狭心症と虚血性心臓突然死の多くは、プラークの破綻を契機として、冠動脈内腔に血栓が形成され、内腔が閉塞ないし亜閉塞をきたすと考えられ、総称して急性冠症候群(acute coronary syndrome: ACS)と呼ばれている。プラーク破綻は、線維性被膜が破れ、脂質成分が血液と直接触れることで血栓が形成される“プラーク破裂”と、線維性プラークの表層がびらん性変化に伴って血栓が形成される“プラークびらん”に大別される。急性冠症候群(ACS)の70-80%は、プラーク破裂に伴うもので、20-30%はプラークびらんに伴うことが報告されている。

右室梗塞

右冠動脈の近位部が閉塞することで、左室の下壁領域が壊死に至るだけでなく、右室の壁運動が障害された結果、右室から肺動脈への拍出が出来なくなり、左室への潅流が減って血圧低下に至る
下壁や後壁梗塞の25%~50%に合併する

→肺うっ血は目立たないが、頸静脈などの体循環のうっ血が目立つ
肺うっ血はないためSPO2は良好なのが右室梗塞の特徴

右室梗塞の初期対応は?とうぜん緊急PCIだが・・・
右室梗塞では前負荷軽減させる治療(利尿薬や硝酸薬、モルヒネ)を使用するのはショックを増悪させるリスクがあり、逆にVolume負荷を行う必要がある
さらに右室から肺動脈への拍出を増加させる目的でカテコラミン(ドパミン、ドブタミン)を使用する

  • 右室梗塞の診断手順:
    • 頸静脈怒張あり
    • 心電図で下壁梗塞パターン(Ⅱ、Ⅲ、aVF)でのST上昇
    • 次にV1のST上昇がないかを確認→V1のST上昇は右冠動脈近位部の閉塞を示す
    • V3~V6の電極を、胸骨を挟んで反対側に付け替えて心電図を記録し、ST上昇があれば確実
http://igakukotohajime.com/2020/04/10/%E5%BF%83%E9%9B%BB%E5%9B%B3%E3%80%8Cst%E4%B8%8A%E6%98%87%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AE%E6%88%A6%E3%81%84/
右室梗塞にモルヒネ、ニトロは禁忌

ACS=すぐに全例にMONA(モルヒネ、酸素、ニトログリセリン、アスピリン)はダメ!
右冠動脈閉塞のため、下壁梗塞だけでなく、右室梗塞を合併している危険性あり(25-40%)
右室梗塞では静脈還流不全がおきるため、モルヒネ、ニトログリセリンを使うと、さらに静脈還流不全が悪化し、ショックを起こすこともある

大動脈解離

  • 【偽腔開存型】
    • エントリーから流入した血液がリエントリーから流出しているタイプで、偽腔の中に血流がある状態
  • 【ULP型】
    • エントリーから偽腔に突出する血流(ULP)は確認できるが、流入した血液はリエントリーから流出せず、ほとんどが血栓(血の塊)となっているタイプ
  • 【偽腔血栓閉塞型】
    • 偽腔が血栓で完全に塞がっていて、血流がないタイプ

VTE(肺塞栓/DVT)

  • Wellsのスコアリングシステム
  • ガイドライン→問診でVTE疑い→DDでスクリーニング→陽性なら造影CTというフローチャート
  • ERでは心エコーで右心負荷所見をさがす(右室拡大→D-shape)

心不全総論

心不全(とくにHFrEF)には非ジヒドロピリジン系CCB(ワソラン、ヘルベッサー)は望ましくない
心不全とはポンプ失調、うっ血に伴う症状が主体、がん同様、進行性の病気で元には戻らない
急性心不全の初期対応→CSに基づく治療
慢性心不全→心不全ステージの進行を抑える=ステージCの維持

ステージCのうち、エビデンスが豊富なのはHFrEFのみ(HFmrEF、HFpEFは研究が不十分)
ステージD(終末期心不全と言える)→症状軽減を目的とした緩和治療

  • 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
  • フォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療(2021年)→ARNi、SGLT2阻害薬、イバブラジンについて追加
  • 病態:心ポンプ機能が低下し,主要臓器への灌流不全やうっ血に基づく症状や徴候が急性に出現した状態
  • 症状:うっ血に伴う症状が主体
  • 右心不全、左心不全のいずれかで発症するが、最終的には両心不全に至る
  • 推計患者数は約200万人で, 一度心不全の診断を受けると5年生存率は50%
  • 血行動態バランス調整には自律神経系と体液性因子が関与している(神経体液性因子)
  • レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)の過剰活性が心不全進行にきわめて重要
  • RAA系は循環不全に対する代償機構の1つとして活性化されるが, 不全心の慢性化に伴い過剰活性が遷延し, 逆に心不全の進行を誘発する
  • 心不全には必ず原因がある
    →虚血性心疾患、心筋症、心膜炎、弁膜症、大動脈疾患(ASなど)、高血圧、肺疾患、内分泌疾患
  • 急性増悪→身体機能低下を招くので、急性増悪や入院させないような管理が求められる
  • 心不全はがんと同様、進行性の病態であり、必ず緩和ケアが必要(がん同様、早期からの緩和ケア介入が必要)

急性増悪時の診断(Nohria-Steveson分類)

肺の胸膜付近の末端部は血管陰影が見えないのが正常
→末梢まで血管陰影が見えるのがうっ血所見=カーリーBライン

カーリーBラインのみならまだ軽症→末梢血管拡張→間質への水分逸脱→気道狭窄+低酸素血症→肺胞内に水分滲出→さらなる低酸素血症の進行と泡沫様痰→陽圧換気の適応

正常の画像:ラジグラ(@Radiographica)のブログより
https://radiographica.com/

ProfileCが最重症

急性心不全の初期対応→CSに基づく治療

CS1の心不全治療
まずは酸素とフロセミド(wetでない心不全は少ない)
以前高血圧持続(>140mmHg)なら硝酸薬を追加
それでもだめならNPPV

  • CSの基づく初期対応ではサクッと血圧で分類する→SBP>140mmHgならCS1という感じ
  • 急性心不全においては救急搬送から60分未満にフロセミドが投与された早期治療症例は他の交絡因子に独立して院内死亡率が低値であった
    • 1回静注投与で満足な利尿効果が得られない場合には,むしろ持続静注のほうが有効な場合もある
  • 急性心不全に対するトルバプタンは短期的には自覚症状や体重を改善したが投与後の生命予後を改善するには至らなかった
  • 硝酸薬はけっこう血圧下がる→第二選択で使用する方が安全
https://medical.teijin-pharma.co.jp/respiratory/asv.html

HRはある一線を越えると,心臓の拡張も収縮も悪くする
その一線は,心機能低下例であればあるほど,限界が早く来る
必要以上のHR心収縮と心拡張の悪化を起こすだけでなく,心筋虚血の原因にもなる
→たとえ洞性頻脈であっても,一線を越えたHRは,循環にとっては害悪でしかない
AFtachycardiaを伴う心不全のレートコントロールにはβブロッカーやジギタリス製剤を投与する
βブロッカーの安全域はβ1選択性の違いからカルベジロール>ビソプロロ-ル
心拍数>130bpmはレートコントロールの治療適応、目標値は安静時<80bpm、労作時<110bpm
長期リズムコントロールを行う場合は、アミオダロンが第一選択、だめなら除細動かアブレーション(Naチャネル遮断薬は禁忌)
心不全合併の心房細動では、抗凝固療法は禁忌のない限り必須!!

呼吸補助療法→ASV:Adaptive servoventilation

  • 呼吸補助療法は、慢性心不全に併存する睡眠呼吸障害を治療対象として用いられる
  • 治療抵抗性心不全の呼吸困難などの症状が持続する重症心不全愚者においてASVを使用した呼吸補助療法が、症状の改善をもたらす
  • ASVは、心臓の機能が低下している慢性心不全の患者さんが、在宅で使用する人工呼吸器
  • ASVもCPAPも、睡眠時の無呼吸を防ぐために有効な装置
  • CPAPがいつも一定のリズムで酸素を送り込むのに対して、ASVは使用者の呼吸に合わせて適正な量の酸素を送り込む(呼吸と同調する)機能を持つ
  • ASVは、専用のマスクを装着すれば自動的に作動する仕組みになっている
急性心不全に対するモルヒネ

→後負荷軽減+前負荷軽減作用があるが、予後改善効果は証明されておらずルーチンでは投与しない

塩酸モルヒネは中枢性に働き,交感神経緊張の著しい亢進を鎮静することによって細動脈や体静脈を拡張し,心拍数の減少により心筋の酸素需要は減少する
細動脈の拡張により後負荷は軽減し,また静脈系の拡張により静脈還流量は減少し,肺うっ血は軽減する
血管の拡張が過度になると血圧は低下するため,低血圧,徐脈,高度房室ブロックを合併する患者では注意を要する→右心不全ではショックを増長するので禁忌
呼吸器系に対しては,呼吸回数の減少や呼吸仕事量の抑制により酸素需要を減少させるが,炭酸ガスに対する呼吸中枢の反応性低下により呼吸抑制が起こりやすく,脳内出血例,意識低下例,気管支喘息例,COPD例には原則として投与しない
予後に対する効果については,後ろ向き研究ではあるが,かわらない,もしくは悪化させると報告されておりルーチンでの投与は推奨されない

心不全の症状

→老年医学・訪問診療の心不全症状参照

心不全ステージ分類(厚労省および日本心不全学会)

慢性心不全の治療総論

HFrEF→収縮不全が主体→標準的心不全治療の適応 EF<40%
HEpEF→拡張不全が主体→標準治療が確立されていない
 EF>50%

慢性心不全の治療各論

治療の目的を考える→予後改善なのか、緩和治療なのか

心不全の予後改善を目指す治療は?
急性・慢性心不全診療ガイドライン 2021
β遮断薬・MRA・ARNI・SGLT2阻害薬の4つの薬剤は、これからの心不全治療の中心を担う4剤であり、「fantastic four」と総称されている


症状緩和を目的とした治療は?
酸素、利尿薬、血管拡張薬、モルヒネ、抗不安薬、経口強心薬(4種類)、ジギタリス、非薬物量療法

  • 現時点でもっともエビデンスがあるのはARNi+βB+MRA、費用対効果が高いのはACEI+βB(±MRA)
  • HFrEFに対するエビデンスはARNi ≧ ACE阻害薬 ≧ ARB
  • ARNI(アーニー)はエンレスト1種類のみ→調節性に乏しい(全症例400mg/日を目指す)、ARNIのみ利尿作用がある→https://note.com/doctorpooh/n/n3b6ba9b3ec7dに詳しい
  • MRAの上乗せ効果はHFrEFのみでしかエビデンスなし(HFpEFでは投与必要なし)
  • SGLT2阻害薬(ジャディアンス、フォシーガ、効果は同等)もDM並存の有無に関わらず心不全予後改善効果あり、特にDM合併の心不全にはDPP4阻害薬よりもSGLT2阻害薬の方が予後良い(SGLT2阻害薬の心臓に対する良好な作用機序に関しては、心筋のエネルギー効率を改善して、収縮力を改善する、炎症を抑えて、心筋の線維化を抑制する、微小循環を改善するなどさまざまな機序が提唱されているが、主要な役割を果たす効果についての一致した見解はまだない)
診療ガイドライン推奨の心不全治療(guideline-directed medical therapy:GDMT)

初回治療の場合は、少量から導入して最大用量まで漸増していく→目安は3か月程度
循環器DrはADHFに対してACEI+SGLT2阻害薬+ループ利尿薬(アゾセミド60㎎)+MRA(スピロノラクトン半錠)から導入していた

経口強心薬・ジギタリス製剤、アミオダロン、血管拡張薬、トルバプタンなど

経口強心薬:
重症心不全による血圧低下や末梢循環不全を伴う患者に対して一時的に使うべき薬剤という位置づけ
→複数の大規模臨床研究にて心不全患者の予後を悪化させる結果が示されているため
心不全ガイドラインでは
「NYHAⅡ度以上で、他の薬剤で症状の改善が得られない場合、QOLの改善のため不整脈の増悪に注意を払いながらピモベンダンを追加してもよい」

硝酸薬:
未治療の虚血領域があるなら継続も可、OMIで有意狭窄ないなら終了でよい

QOL改善を目的とした短期投与が望ましい
長期投与の場合には不整脈の出現に注意する

  • 経口強心薬:
    経口強心薬の使用は短期間にとどめできるだけ早期に漸減、中止する
    慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)においても無症状の患者に対して経口強心薬を長期投与することはクラスⅢ(禁忌)
    強心剤の点滴からの離脱(クラスⅡa)やβ遮断薬導入時の補助(クラスⅡb)のために一時的に使用する
    通常β遮断薬導入時にはβ刺激作用を有する薬剤ではなくPDE阻害薬(=ピモベンダン)を使う
    • カテコラミン類似薬→心不全ガイドラインでの記載なし
      • ドカルパミン(商品名タナドーパ)
      • デノパミン(商品名カルグート)
    • PDE阻害薬
      • ピモベンダン(商品名アカルディ)
        • ピモベンダンにはPDE阻害作用に加えCa感受性増強作用がある
        • PICO trialではピモベンダン(2.5mg/日と5mg/日)投与により運動耐容能は改善したものの死亡率も増加する傾向がみられた
        • 処方例:
          1.25mg/日(分1)を開始し、効果が不十分な場合に限り2.5mg/日(分2)へ増量
          そして目的を達成できたら速やかに漸減、中止する
          5mg/日以上の投与は個々の症例でリスクとベネフィットを熟慮して判断する
      • ベスナリノン(商品名アーキンZ)
  • ジギタリス製剤:
    • 心房細動などにおける心拍数コントロールを目的に,0.125~0.25 mgを緩徐に静注し,中毒に注意しながら適宜使用する方法が一般的であり,急速静注飽和療法は現在では用いられることが少ない
    • ジギタリス投与の禁忌例として,徐脈,第2~3度房室ブロック,洞不全症候群,WPW症候群,閉塞性肥大型心筋症,低カリウム血症,高カルシウム血症があげられる
    • 心不全合併の心房細動のレートコントロールにはワソラン、ヘルベッサーはガイドライン上、禁忌
      →ジギタリスまたはβブロッカー(カルベジロールがよりマイルドに作用し安全域高い、がっつり下げるならビソプロロ-ルの方がβ1選択性が高く効果的)、アミオダロンを使用する
  • トルバプタン(サムスカ):
    • 長期投与について明確なエビデンスはなく、継続の可否に迷うようなら専門医に相談すべき
  • 血管拡張薬:
    • 硝酸薬→投与の是非はPCIで未治療の心筋虚血があるかどうか?がすべて
      • 体血管は静脈>動脈に拡張する、冠動脈拡張作用も有する
      • 一般的には急性心不全に対する治療薬と考える、最も良い適応はACSによる急性心不全
      • 急性左心不全による重症肺水腫では有効性は硝酸薬>>利尿薬
      • 収縮期血圧90mmHg未満の心原性ショック患者に対する血管拡張薬の使用は控えるべき
      • 血圧高値,心筋虚血を合併する患者,僧帽弁逆流症がある患者などは血管拡張薬が望ましい場合がある
      • 慢性心不全の急性増悪のように体液貯留によるうっ血が著明の場合には利尿薬主体の治療を行う
      • ニトログリセリンや硝酸イソソルビドの舌下やスプレーおよび静注投与が,急性心不全や慢性心不全急性増悪時の肺うっ血の軽減に有効である
      • 作用機序:
        低用量では静脈系容量血管を,高用量では動脈系抵抗血管も拡張し,前負荷軽減効果(肺毛細管圧低下)および後負荷軽減効果(末梢血管抵抗低下に伴う心拍出量の軽度上昇)を発現する
      • 副作用:
        硝酸薬の副作用として,血圧低下と肺内シャント増加に由来する動脈血酸素飽和度の低下があげられる
        また,静注投与に伴って早期から耐性が発現する
    • ニコランジル(シグマート):
      • 硝酸薬にくらべて薬剤耐性を生じにくい
      • さらに,過度な降圧をきたしにくい
      • 心筋梗塞急性期におけるニコランジル投与によって,梗塞サイズならびに心臓死および心不全入院についてプラセボ群と有意差を認めなかった
    • カルペリチド(ハンプ):
      • 血管拡張作用,ナトリウム利尿効果,レニンやアルドステロン合成抑制作用などにより減負荷効果を発現し,肺うっ血患者への適応とともに,難治性心不全に対してカテコラミンなどの強心薬と併用される
      • 急性心不全におけるカルペリチド投与については,他の血管拡張薬と同様,予後改善効果は確立されておらず,今後有効な患者の選択が重要である
      • 投与初期に血圧の低下を生じることがあるので,投与開始の際には低用量(0.025~0.05 μg/kg/分[場合により0.0125 μg/kg/分])から持続静脈内投与する
      • 重篤な低血圧,心原性ショック,急性右室梗塞患者,脱水症では禁忌である
ARB=ACEIは間違い
https://note.com/doctorpooh/n/nc1991c2fdd8d
  • 降圧効果:日本高血圧学会のガイドラインではいずれを優先して推奨するような記載はなく対等
    →降圧効果は同等、薬価はARB>>ACEI、ACEIの問題は空咳がでることくらい
     ACEIの保険用量は少ないためACEIは降圧効果が出ないと思われがち(→イミダプリル(タナトリル)やペリンドプリル(コバシル)が推奨)
  • 心不全:日本循環器学会のガイドラインでは,「ACE阻害薬が忍容性の点で使用できない場合にARBを用いるべき」→両薬剤のエビデンスの違いがある
  • 心不全を合併していない心血管疾患高リスク症例のメタ解析(J Am Coll Cardiol. 2013 Jan 15;61(2):131-42.)
    ACE阻害薬心筋梗塞,脳卒中,全死亡,心不全新規発症,糖尿病新規発症を有意に抑制
    ARB脳卒中,糖尿病新規発症のみしか抑制しなかった
  • BPLTTC試験(J Hypertens. 2007 May;25(5):951-8. )
    ACE阻害薬はARBより9%有意に冠動脈イベントを抑制
  • 心疾患治療においては,ARBはACE阻害薬にエビデンスで劣る
  • 出典:循環器Drぷーさんのブログ https://note.com/doctorpooh/n/nc1991c2fdd8d
非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬 (MRA)とは

MRAに分類される薬剤は①ミネラルコルチコイド受容体(MR)への選択性、 ②薬剤構造 (ステロイドor非ステロイド骨格)の2点から第1~第3世代に分類される。
第一世代に分類されるアルダクトン®AはMRへの選択性が低く、 アンドロゲン、 グルココルチコイド、 プロゲステロン、 エストロゲンなどの各受容体も阻害する。
MRAの利尿効果はごくわずか(Na再吸収の1~3%しか担っていない)→K保持性利尿薬と呼ぶには不適。
MRAの心不全予後改善効果は利尿作用によるものではなく、ACEI/ARB開始後に生じるアルドステロンブレイクスルーである→唯一の対策はACE阻害薬/ARBにMRAを併用すること

MRAのうち、心不全に適応があるのはアルダクトンとセララ
セララはアルダクトンに比べて利尿効果が少なく、血圧降下が強く、女性か乳房が少ない
心不全に対するMRAの使い分けもガイドラインには明記されていない

アルドステロン系は生物が海から陸へ上陸した際に、陸上生活に適応するために進化した。アルドステロンの過剰発現は心臓や腎臓の肥大や線維化、リモデリングの促進、あるいは酸化ストレス発生やアポトーシス誘導をもたらし、また血管平滑筋の収縮増速作用、線維化促進や内皮機能の低下、炎症反応の惹起作用をきたす。

COPDや喘息合併の心不全にβブロッカーは?β刺激薬は?

心不全ガイドラインでは
COPD+HFrEFにおいてはHFrEFに対する標準治療(βブロッカー含む)+COPDに対するLABA+LAMAの吸入療法を併用することが推奨されている
COPD+HFpEFにおいてはCOPD治療を優先する
気管支喘息+HFrEFに対するβ1選択性の高いβB(=ビソプロロ-ル)の投与はIIaで推奨される

気管支喘息発作時のSABA使用においては、心不全の増悪に注意する

呼吸困難時におけるCOPDと心不全の鑑別にはNT-proBNPが有用


→https://www.medsi.co.jp/Download_files/CardiovascularDrugFile2Ep236-241.pdfに詳しい
喘息と心不全のどちらがより重症かにもよるが、β1選択性が高いII類薬は気管支喘息、冠攣縮性狭心症の患者でも使用可能(慎重投与)

心不全治療に対し保険適応下で使用できるβ遮断薬は現在2種類(その他のβBは使用できない)
カルベジロール(アーチスト)→αβブロッカー(=β1非選択性)のため、喘息禁忌!
ビソプロロール(メインテート、ビソノテープ)→β1選択性のため、喘息でも使用可能

カルベジロールは肝代謝、ビソプロロールは一部腎代謝→カルカン・ビジンで覚える

内因性交感神経刺激(intrinsic sympathetic activity: ISA):
→交感神経興奮時にはβ遮断作用を呈し、非興奮時にはβ刺激作用をもつことを意味し徐脈を起こしにくい
ISA-の方が好ましいとされている
膜安定化作用(membrane stabilizing activity: MSA):
→膜を安定化し、高用量で活動電位の立ち上がりを抑制することらしいが、実診療ではどうでもいいらしい


Q.では心不全患者にβ刺激薬の吸入薬を使用するのは安全か?

A.吸入β刺激薬は主要心血管イベントリスクを上昇させる

喘息患者において
 β2刺激薬はMACEリスク(=心血管イベント)と関連していなかった

COPD患者において
 LABA(ハザード比2.38、95%CI 1.04-5.47)、SABA(ハザード比2.02、95%CI 1.13-3.59)、ICS/LABA(ハザード比2.08、95%CI 1.04-4.16)使用者はSAMA使用者と比較してMACEリスクが増加

  • ホクナリンテープ(ツロブテロールテープ):
    • 添付文書上、心疾患に禁忌ではない
    • β2選択制が最も高いので、心疾患にも使用しやすい
ANPとBNP、NT-proBNPについて
  • NT-proBNPが上昇する因子:加齢、腎機能障害、貧血、全身炎症
  • NT-proBNPが低下する因子:肥満
  • 心不全の重症度を鋭敏に反映(ANP < BNP < NT-proBNP)
  • ANPとBNPはそれぞれ心房性優位、心室性優位に分泌される
  • BNPやNT-proBNPは、主として心室にて、壁応力(伸展ストレス)に応じて遺伝子発現が亢進し、速やかに生成・分泌される。両ペプチドとも心室のみならず心房からも10%ほど分泌されるため、心房細動などでも軽度上昇する
  • ともに心臓から分泌されるホルモンで、利尿作用、血管拡張など、心臓に対する負荷を軽減する
  • ANPやBNPの健常人の血中濃度は極めて低値だが、急性および慢性心不全患者では重症度に比例して増加し、特にBNPは、病態に応じて鋭敏に反応するため、心不全の診断または病態把握に広く用いられる。
  • 症状のない早期心不全でも血中濃度が上昇していることから、最近は心不全のスクリーニング検査としても注目され、人間ドックや検診にも用いられている。
  • NT-proBNPは、BNPと同じくBNP前駆体から分解されて生じるホルモンで、心不全患者で著明に上昇し、診断精度も同等で血清検体で測定でき、採血後の検体での保存安定性も良好なことから、他の生化学項目と同一採血管での測定や追加検査も可能
  • BNP、NT-proBNPともに腎機能の低下に合わせて血中濃度が上昇する
  • BNPとNT-proBNPは1:1で分泌される
起坐呼吸と発作性や肝呼吸困難の違い

慢性心不全ステージDに対する緩和治療

緩和治療およびACPはステージCから病状と患者の抱える苦痛に合わせて提供されていくものであり,ステージDを迎えてから開始するものではない
人生の最終段階で苦痛を抱えながら生を終えることは,患者及び家族のQOL及びQOD(qualityof death)を高度に低下させるものであり,心不全薬物療法の確立は喫緊の課題

心臓弁膜症

頻度順にAS>MR>AR>MS

https://www.heartvalves.com/jp/diagnosis

AS

有病率は後期高齢者の13%で日本では284万人(重症は約56万)
高齢者ASでもっとも多い原因はA弁の石灰化
有症状ASの予後は悪性腫瘍とほぼ同じ

https://www.heartvalves.com/jp/diagnosis

低流量低圧較差AS(low flow,low gradient AS)→重症化し心不全をきたすとPGはむしろ減少することがある

https://www.heartvalves.com/jp/diagnosis
SVI; Stroke volume index. (1 回心拍出量係数) 1 回心拍出量を体表面積で補正した値
  • 疫学:
    • 有病率は後期高齢者の13%で日本では284万人以上いるが、治療を受けているのは2万人/年
  • 症状:
    • 息切れ
    • 胸の痛み、重苦しさ(狭心症)
    • 疲労
    • めまい、失神
    • 活動範囲の減少
    •  その他(頻拍または不整脈、動悸)
  • 身体所見・検査:
    • 収縮期駆出性雑音
    • Ⅱ音が小さいか、または聴こえない
    • 他に頸動脈の立ち上がりが遅い等の身体所見
    • 左室機能障害が進行すると収縮期雑音が小さくなるため、収縮期雑音の強弱のみの判断では、病態の重症度を見誤る可能性がある
    • 心エコーによる重症度分類
    • BNP→無症候性重症ASにおける症状出現や心血管イベントを予測しうるためフォローアップに適している
  • 予後:
    • 狭心症状が出ると平均5年、失神だと平均3年、心不全だと平均2年の余命→重症化前の早期治療が重要
    • 悪性腫瘍と同程度の5生率
    • ASは心臓の出口の障害が引き金となり、その手前すべてが障害されていくために予後不良となる
  • 治療成績:
    • 弁膜症ガイドラインにも薬物治療の記載なし→治療法は手術のみ
    • 年間に1万人がTAVI(=TAVR)、1万人がSAVRを受けている
    • TAVIは導入から10年を過ぎ、現在はSVARと同程度行われている
    • 弁膜症治療のガイドラインでは治療法選択における年齢のおおまかな目安として、80歳以上はTAVI、75歳未満はSAVR
https://www.heartvalves.com/jp/therapy
心電図同期撮像法とは?

心臓が一瞬とまる収縮末期または拡張中期と言われる時期のボリュームデータを集めて画像を構築する手法

リウマチ熱と弁膜症

リウマチ熱とは、A群溶血性レンサ球菌(溶連菌)に対する免疫反応によって生じる炎症性の合併症の1つ
溶連菌感染症は治療せずに自然治癒することもあるが、治療を行わなかった場合に、治癒してから通常2~3週間後に関節や心臓、皮膚、神経系に炎症が起こることがある
この溶連菌に対する抗体による自己免疫性合併症がリウマチ熱で、さまざまな部位に炎症が生じる結果、発熱に加えて関節痛や胸痛、発疹、不随意運動など、炎症部位に応じた症状がみられるようになるが、最も問題になるのが心臓弁膜症でリウマチ熱患者の50〜60%に発症する
ペニシリンによる抗菌薬の導入により、1980年代では、200〜400分の1の発生数に激減しているが、発展途上国ではいまだにリウマチ熱の発生頻度は高い

現在、日本におけるリウマチ熱の年間報告数は数例と非常にまれな合併症である
発症者は子どもに多く、特に5~15歳くらいによくみられる

心房細動

大規模臨床試験からわかったこと

①心房細動治療において最も大事なことは、脳塞栓症の合併をいかに減らすかということ

②心房細動治療で抗不整脈薬による洞調律維持は心拍数調節に勝るものではない

  • 脳梗塞リスク評価に応じて(→CHADS2スコア)抗凝固療法を開始する(発作性、持続性問わず)
  • 弁膜症性=僧帽弁狭窄もしくは人工弁(機械弁+生体弁)
  • 甲状腺機能評価を行う(甲状腺の治療で70%が自然停止)
  • 心雑音があれば弁膜症性を疑う
  • WPW症候群+Afは除細動の適応(Vfへの進展リスクあり)
  • ダビガトラン、リバーロキサバンの消化管出血はワーファリンよりも高頻度
  • DOAC処方時はCockcroft-Gault推定式に従う
1点で2.8%/年、2点で4%/年、3点で5.9%/年の脳梗塞発症率

睡眠呼吸障害(Sleep Disordered Breathing, SDB)

SDBとは、睡眠中に一過性の呼吸異常または障害が断続的に出現する病態
近年、高血圧から虚血性心疾患、不整脈、肺高血圧症、心不全まで、様々な循環器疾患に高率にSDBが合併すること、ひいてはその発症と進展に大きく関与する可能性が指摘されている
SASのように日中の過剰な眠気やいびきのような典型的な症状を伴わない場合にも、呼吸不安定とそれに伴う低酸素血症は心・肺・血管に悪影響を与えることが証明され、その適切な診断と管理が、すなわち適切な集学的循環器診療の一部であることから、SDBという診断名を用いるようになった

  • 「AHA/ ACCによる睡眠時無呼吸と心血管病変に関するガイドライン」2008年
  • 「循環器領域におけるSDBの診断・治療に関するガイドライン」 日本循環器学会、2010年
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