ノーベル賞受賞のがん治療薬「オプジーボ」の真実

「オプジーボ」という薬の名前は聞いたことがない方も「本庶佑先生」のお名前は耳にされたことがあると思います。
2018年、京都大学の本庶佑先生がノーベル医学・生理学賞を受賞したことをきっかけに、がんの免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」(一般名「ニボルマブ」)が脚光を浴びました。

では新薬 「オプジーボ」 は、どのような特徴の薬なのでしょうか?

  • オプジーボは免疫細胞ががん細胞を攻撃できる環境を作り出す画期的な薬である
  • 保険診療で適応症が決まっている(2019年12月現在、悪性黒色腫、非小細胞肺癌、腎細胞癌、ホジキンリンパ腫、頭頚部癌、胃癌、悪性胸膜中皮腫、悪性黒色腫の術後補助療法で保険適応)
  • 悪性黒色腫非小細胞肺癌ではいままでの標準治療を塗り替えるほどの優れた治療成績
  • けっして副作用が少ない安全な薬というわけではない(副作用は約80%に出現)
  • 問題点として薬の値段が非常に高い(100mg当たり27万8029円)

オプジーボを使用できる適応症(抗がん剤をはじめすべての薬は厚生省が認可した対象疾患にのみ投与することができます)が拡大していますが、オプジーボの治療効果はがんの種類によって様々です。
肺がんでは、いわゆる末期がん状態とされるステージⅣ肺がんの患者さんの16%が5年間生存したという驚異的データを誇ります。
悪性黒色腫という皮膚がんは、悪性度が高い(=治療抵抗性で寿命が短い)ことで有名なのですがオプジーボは優れた抗がん作用を示し、今や悪性黒色腫治療の根幹を担う薬剤となりました。

一方、胃がんに対するオプジーボの治療成績は残念ながら芳しくありません。
手術で切除できないステージIV胃がんの患者さんにオプジーボを投与した臨床試験では、オプジーボ群の生存期間5.26ヵ月に対して何も投与していない群では生存期間4.14ヵ月でした。
「ん、ちょっと待てよ。たった1か月しか差がないけど」と感じたあなたはするどい!
その通りステージIV胃がんの患者さんにオプジーボを投与しても全体の平均寿命で比較すると寿命を1か月延長するだけなのです。
免疫チェックポイント阻害剤はノーベル賞受賞の新しい作用機序の抗がん剤ですが、現段階では残念ながらすべてのがんを根絶できるわけではないのです。

そして、オプジーボに関するもう一つの深刻な問題が「超高額な薬剤費」です。
1回の治療にかかる費用が約65万円、月2回で約130万円です(70歳未満は3割、70~74歳は2割、75歳以上は1割を負担、さらに高額医療制度が利用可能です)。
これがどれくらい高額なのかと言いますと、オプジーボ1回の薬剤費の方が胃がんの手術費用(医師や看護師の人件費や高価な使い捨ての手術器具を含めて数十万円)よりも高いのです。
これは外科医からするとなんだか変な気持ちです。

お金と命を比べることは今まで長くタブー視されてきましたが、高額な薬がたくさん登場し超高齢化社会に突入した今、費用対効果をまったく考慮しない現代医療が存続するとは到底思えません。
ましてやプラス1か月の寿命を延ばすために多額の税金を投入することは本当に国民の利益と言えるでしょうか?
肝心の患者さんが高額な治療費に泣き、国の財政が傾き、喜んでいるのは製薬会社だけ・・・なんていうことにならないといいのですが。

本庶佑先生の業績がノーベル賞に値することには何の異論もないのですが、免疫チェックポイント阻害剤にはまだまだ解決しなければならない課題が山積みです。

胃がんに対するオプジーボの有効性を例にご説明しましたが、各がんごとにオプジーボによる治療成績が異なります(悪性黒色腫の場合にはオプジーボでかなりの治療効果が期待できます)ので詳細は個々の癌腫についての解説をご参照ください。

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この記事を書いた人

たけしのアバター たけし アラフォー外科医

40歳を過ぎ、人生に焦りを感じ始める
自分がすべきことを探求した結果、健康に関する情報発信を始める
妻の経営する弁当屋のホームページも担当

将来の夢は自分のクリニックをひらき元気な高齢者を増やすこと

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