身近に潜む薬物依存 ~眠剤の功罪~

あなたは不眠症で悩んだ経験がありますか?

長い人生のうち、誰しも一度や二度は不眠症に悩んだ時期があると思います。
私も何度かそういう時期がありましたが、幸い自然に治りました。
自分がそうであったように、不眠症の多くは不眠の原因(からだの不調やストレス、不安、悩み、生活環境の変化など)が解消すれば自然に改善していくと思います。
しかし自分ひとりではなかなか解決できない不眠症状の場合は、睡眠薬に頼らざるを得ない場合もあることでしょう。
事実、私も患者さんから「眠れないので睡眠薬を処方してほしい」、「これがないと眠れないから同じ薬をください」という依頼を幾度となく聞いてきました。
たしかに外科手術のために入院した患者さんは、不安や慣れない入院生活で不眠症状を訴える方も多くいらっしゃいます。
病院(特に外科病棟)は夜間であっても看護師さんの診回りやナースコールの音など、必ずしも安眠できる環境ではないため、患者さんからの希望があれば入院期間に限り睡眠薬をときどき処方しています。
しかしその場合でも漫然と長期投与せず、短期間の最小限の使用にとどめるなど、慎重に使用します。
その最大の理由は、睡眠薬は薬物依存を起こすことがあるためです。

一般的な睡眠薬として頻用されるベンゾジアゼピン系薬剤は、即効性があり効き目を実感しやすいため患者さんには好まれる薬ですが、実は薬物依存を起こす可能性が指摘されているのです。
そのため、海外のガイドラインでは投与期間を4週間以内と制限していますが、2020年1月時点でのわが国においてはいくらでも処方することができます(1回の処方は28日が上限ですが、繰り返し処方することには制限がありませんので事実上飲み続けることが可能です)。
こうして数か月以上睡眠薬を飲み続けた結果、睡眠薬の依存状態に陥ってしまうのです。
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を長期連用している人が突然薬を中断すると、不眠・不安・焦燥・頭痛・知覚異常などの「離脱症状」が起こります。
依存状態から睡眠薬をきっぱり止めるのは至難の業です。
やめる時の大変さ・苦しさを思えば、最初から手を出さないことが賢明です。

依存をきたしやすいベンゾジアゼピン系の薬(抗不安薬も含む)は
フルラゼパム[ダルメート]、 リルマザホン[リスミー]、ジアゼパム[セ ルシン、ホリゾン] 、エチゾラム[デパス]、トリアゾラム[ハルシオン]、ブロチゾラム[ レンドルミン ]、ニトラゼパム[ ネルボン、ベンザリン] 、フルニトラゼパム[サイレース、ロヒプノール]、エスタゾラム[ユーロジン]、ハロキサゾラム[ソメリン] 、 アルプラゾラム [ソラナックス、コンスタン]、ロラゼパム [ワイパックス]、ゾピクロン[マイスリー] などです。

とくに高齢者の場合には、依存以外の副作用として
①日中の眠気
②ふらつきや転倒・骨折
③健忘(もの忘れ)
などの副作用も出やすくなりますので、注意が必要です。

さらに驚くべき事実は、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は肝心な睡眠の質を落としてしまうのです。
睡眠は浅い睡眠、深い睡眠が周期的に入れ替わるのですが、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は浅い睡眠を増やすということが知られています。
これではなんのための睡眠薬かわかりませんね。

以上のように、一度飲み始めてしまった睡眠薬をやめるには勇気と覚悟、そして努力が不可欠となります。
不眠症の半数は生活習慣を見直すことで改善するとされています。
お医者さんは、自分のかかりつけの患者さんが増えるためお薬を処方してくれるかもしれませんが、 安易にベンゾジアゼピン系睡眠薬に頼るのは危険です。
生活習慣の改善だけでは解決できない不眠症でお悩みの場合は、依存症を起こしにくいタイプの睡眠薬もありますのでそちらを検討してもよいかもしれません。

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

たけしのアバター たけし アラフォー外科医

40歳を過ぎ、人生に焦りを感じ始める
自分がすべきことを探求した結果、健康に関する情報発信を始める
妻の経営する弁当屋のホームページも担当

将来の夢は自分のクリニックをひらき元気な高齢者を増やすこと

コメント

コメントする