ロボット支援手術(ダビンチ手術)について

ロボット支援手術をご存じでしょうか?
開発したアメリカ企業の製品名で「ダビンチ手術」や単に「ダビンチ」などと呼ばれることもあります。

日本ロボット外科学会ホームページより

テレビドラマの「ブラックペアン」や人気コミック「宇宙兄弟」にも登場した手術支援ロボットを使用した手術です。
術者は昭和アニメにでてくるロボットのコックピットのような術者用コンソールに座りながら、ロボットアームを操作して手術を行います。
世界的に急速に普及しつつあるロボット支援手術、なんと2017年には世界で約87万5000件も行われたというのです。
ではなぜいままで人間が手作業で行っていた手術にロボット技術の導入が進んでいるのでしょうか。

そもそもダビンチはアメリカの政府と企業が軍事目的に共同開発した医療用ロボットです。
「遠い戦地の患者を安全なところから遠隔操作で手術が行える」というコンセプトで研究開発が始まりました。
ですから、手術室内に患者さんと執刀する医師が居合わせる状況においてあえて1台数億円もするダビンチを使用して手術を行うことに本来あまりメリットはないのです。
というのも日本においてはダビンチ手術が普及する以前から、腹腔鏡下手術という方法でまったく同じ低侵襲手術がさかんに行われてきた実績があります。
ダビンチ手術は従来の腹腔鏡手術と比較した場合、手術の内容が変わるわけではなく、人間が手で行っていた作業をロボットアームを使用して行っているに過ぎません(ロボットアームの方が人が手で行うよりもやりやすい動作というものは存在します)。
メリットがあるとすれば、術者のストレスが多少軽減したり、「うちは新しい手術をやってる最先端の病院なんだぞ」と優越感に浸れるといったところでしょう(外科医は総じて新しいものが好きな人種です)。

ネットで「ロボット手術」と検索すれば、「うちの病院はロボット支援手術をしています」という病院ホームページの宣伝がたくさんヒットしてきます。
これには最近、日本においてもダビンチ手術が保険適応となった疾患が一気に拡大したことが影響しています。
しかし、賢明なみなさんはこの話に飛びつかないようにしてください。
というのもダビンチ手術はまだ日本に導入されて日が浅いため、まだまだ圧倒的に不慣れな医師が多く、思わぬ合併症に見舞われる危険性があるのです。

がんの手術成績を比較する場合、術後早期合併症と5年生存率で評価されることが一般的です。
日本におけるダビンチ手術はまだまだ黎明期のため、長期成績は現時点では誰にもわかりません。
そもそもダビンチ手術以前の腹腔鏡手術も、従来の開腹手術と比較して絶対的に安全で優れた手術であるという結論は出ていませんが、なし崩し的に施設独自の基準でその適応が拡大されてきました。
一部の進行がんの方には、腹腔鏡手術で再発率が高くなる危険性も指摘されていますが、腹腔鏡手術に関してとくに学会や国としての規制はなく、施設ごとの判断で行われているのが現状です。

2018年にダビンチ手術が一斉に保険適応開始となり、全国の外科が一旗揚げようと血眼になってダビンチ手術の症例を探し回っているのがちょうどまさに今なのです。
病院のホームページを見て迂闊に誘われてはいけません。
担当医の説明をよーく聞いて、ダビンチ手術のメリットとデメリット、執刀医となる先生の経験年数やダビンチ手術件数を聞いたうえで結論を出すべきです。
新車やマイホームの購入のときに、担当者の説明を聞いて購入するかどうか悩むのと同じです。
じっくりと先生の説明を聞いて、その場で返事を即答する必要はありませんし、そこで返事を急くような病院は避けた方がいいでしょう。
また、病院にもよりますが外来担当の先生がそのままあなたの執刀医となるとは限りませんので、外来の先生を信頼して、あなたの命を預けようと決断したのであれば、その点は入院の前にしっかりと確認しておくべきです。

ダビンチ手術の最大の欠点は「手から伝わる感触」が欠如していることです。
ブラック・ジャックを読んだ方はイメージがつきやすいと思いますが、外科医は数多くの経験から培った 「手から伝わる感触」 によってたくさんの情報を得ることができます。
簡単な例えで言うと「このがんは切れる、切れない」を触診で瞬時に判断したりするのです。
「手から伝わる感触」 を欠如したロボット支援手術は、力の入れ加減がわかりませんので、縫合糸の操作等の手加減が難しく糸を引き千切ってしまったりすることもありますし、アームが臓器に接触してもいまどれくらいの圧力が伝わっているかがわからず臓器を損傷してしまうリスクもあります。
そういった欠点が開腹手術では起き得ない悲惨な合併症を招き、ダビンチ手術を受けた患者さんが死亡したケースも実際に日本で報告されています。
ロボット手術は複雑な装置ゆえにトラブルも多く、広島大学の集計では約1/7の手術で、何らかのマイナートラブルが発生しているとも報告されています。

ロボット支援手術のメリットばかりが注目される現状は、アメリカ企業に踊らされた我々外科医や十分な吟味を行わずに慌てて保険審査を通過させた厚労省、マスコミにも責任がありますが、あなたとあなたの大切な方がその不利益を被ることがないよう、医師の説明をよく聞き、疑問に感じたことは恐れずに質問する姿勢が重要です。
そして自分(とご家族)が納得した治療方法を選択しましょう。

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

たけしのアバター たけし アラフォー外科医

40歳を過ぎ、人生に焦りを感じ始める
自分がすべきことを探求した結果、健康に関する情報発信を始める
妻の経営する弁当屋のホームページも担当

将来の夢は自分のクリニックをひらき元気な高齢者を増やすこと

コメント

コメントする