今後の感染動向を左右する基本再生産数、実効再生産数と集団免疫率について 

東洋経済オンラインに今後のCOVID-19動向を決定する3つの数字について、とてもわかりやすい解説が掲載されましたのでご紹介します。

科学が示す「コロナ長期化」という確実な将来 
3つの変数でわかる私たちがとるべき対策 
野村 明弘 : 東洋経済 解説部コラムニスト(東洋経済オンラインより一部内容を加筆修正して転載)

基本再生産数とは、「ある感染者が、その感染症の免疫をまったく持たない人の集団に入ったとき、感染力を失うまでに平均で何人を直接感染させるか」を指します。
これに対して、実効再生産数は手洗いやうがい、人々の接触削減といった対策が取られれば、1人の感染者が実際に直接感染させる人数が減るのは当然で、こうした対策の結果として得られた実際の再生産数です。

WHO(世界保健機関)は新型コロナウイルスの基本再生産数は1.4~2.5程度と暫定的に見ています。
これは、1人の新型コロナウイルス感染者が平均1.4~2.5人に新たな感染を引き起こすということです。

感染制御に関しては、実効再生産数がより重要です。
それは実効再生産数が1を上回る時は感染が拡大し、1を下回れば感染は収束することを意味するからです。
日本政府の専門家会議によると、今年3月下旬の東京都の実効再生産数は1.7と推計されました(ただし日本のPCR検査数が非常に少ないため必ずしも正確な感染の蔓延状況を反映していない可能性が高いです)。
香港や英国の大学のチームによると、一足早く感染爆発を起こした欧米諸国の多くは3月中旬ごろ、実効再生産数が2~4程度でした。

つぎに、集団免疫率とは「実効再生産数が1に到達するときの集団における既感染者の比率のこと」です。

表のように、集団免疫率は集団免疫の効果を除いた当初の実効再生産数に応じて数値が異なってきます。
実効再生産数がいくつであっても、集団免疫による数値の低下は同じように起こりますが、もともとの実効再生産数が小さければ小さいほど(つまり1に近い)、早く1に到達します。
そのため、実効再生産数が小さいほど、集団免疫率は小さくなり、それは必要なワクチンの接種数が少なくて済むということを意味します。
たとえば再生産数2の時点では、人口の50%が免疫獲得する必要がありますが、再生産数を1.1まで低下させることに成功すれば人口のわずか9%が免疫を獲得するだけで済む計算になります。

そこで重要になってくるのが、世界中が自国経済を犠牲にしてまで必死に取り組んでいる「接触機会の減少による実効再生産数の抑制」です。
先進諸国の多くが採る戦略は、接触削減などの対策で実効再生産数を抑制して医療崩壊を防ぎながら、最終的にはワクチンの実用化により人工的に集団免疫を獲得し感染の収束を達成するというものです。

最終的な感染収束のためにはやはりワクチン開発が急務であることに異論はないでしょう。
しかし、ワクチン開発について一般的に言われているのは、「ワクチンファクトブック2012」(米国研究製薬工業協会)によればワクチン開発は通常、10~15年の歳月がかかり、10億ドル規模の資金が必要になるというのです。
新型コロナウイルスでは、資金や制度面での政府支援拡大により人類史上類を見ない驚異的スピードでワクチン開発が進んでいますが、WHOはそれでも実用化には早くて12~18カ月かかるとしています。

すでにアメリカの研究機関からは、人類と新型コロナウイルスの戦いは長期戦となるという報告がもたらされています。
そこで、新型コロナウイルスのパンデミック下での生活や政策のベースとなり、今後の動向を予測するためデータとして計測しておくべきものは、実効再生産数と集団免疫状況(既感染者数)です。
野村氏は「例えば、感染症疫学の専門家が最新のデータを基に、毎日あるいは毎週といった頻度で最新の実効再生産数を公表しその推計値を見ながら、政府は経済や国民生活とのバランスを考えて接触削減などの対策を強化すべきか緩和すべきかを検討する。
また、実際の集団免疫の状況がわかれば、正確な重症化率や致死率を把握できるうえ、政府が対策によりコントロールする実効再生産数の下でいつ頃、集団免疫率に達するかといった見通しを国民に示すこともできる。
そのためにもPCR検査をもっと拡大させてデータ量を増やし、推計値の精度を高めるのは当然だ。
また国内外で抗体検査実施が検討されているが、これは国民1人ひとりが「自分が陽性か否か」を確認して安心を得るためではなく、社会全体で実際の免疫保有率がどれくらいになっているのかを推計するため、と理解すべきだろう。
新型コロナは無症状や軽症の陽性者が多いため、実際の集団免疫の状況を把握するにはPCR検査以外でもデータ収集する必要がある。
一部の専門家は、医療機関などが保有する過去数カ月分の血清の抗体検査を行うだけでも、おおよその免疫保有率がわかると指摘している。」と述べています。

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この記事を書いた人

たけしのアバター たけし アラフォー外科医

40歳を過ぎ、人生に焦りを感じ始める
自分がすべきことを探求した結果、健康に関する情報発信を始める
妻の経営する弁当屋のホームページも担当

将来の夢は自分のクリニックをひらき元気な高齢者を増やすこと

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