新型コロナウイルスについてわかってきたこと その3:重症化のリスク

新型コロナに感染してもほとんどの人(感染者全体の約80%)は無症状か軽症のまま自然に治癒することがわかってきました。
そして、1年間の研究データからどのような人が重症化しやすいのかも徐々に分かってきました。
これまでに分かっている、重症化のリスクとそのメカニズムについて考えます。


Q1.重症者の定義とは? 

東京都の定義では重症者とは『人工呼吸器やECMO(人工肺)の装着を要する状態』としています。
一方、日本国としての定義は東京都の定義に『ICUで治療しているもの』も加えているため、東京都よりも広い定義になっています。
大阪など、東京以外の流行地域の重症者数と東京都の重症者数を比較するときは注意が必要です。

Q2.重症化するメカニズムは?

重症化のメカニズムを理解するには、まず腎臓、心臓、血管の⽣理機能についてかるく触れなくてはなりません。
ACE2(前項、その2:症状と後遺症のページで解説しました)は新型コロナウイルスの細胞内への侵入経路でしたね。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、ACE2、心血管系疾患の関係 ...


本来、ACE2は生体内の血管収縮(血圧調整)、抗炎症作用、抗線維化作用、利尿作用など生命維持の根幹に深く関わっている重要なものです。
そしてACE2は⾼⾎圧、⼼不全、腎疾患を含む多くの病態に関係しており、これらを有する患者さんはACE2が通常よりも過剰に発現していると考えられています。
ACE2が過剰に発現している人は、必然的に新型コロナウイルスが体内に大量に侵入しやすくなる、つまりこれらを基礎疾患に有するということは、新型コロナウイルス重症化のハイリスク因子となると報告されました。
事実それを裏付けるデータとして、高血圧治療薬のACE阻害薬(ACEを抑制する薬)を服用している人は、意識障害が少なかったというデータも報告されているのです。
しかし、一方でACE2は肺傷害をもたらすアンジオテンシンIIを分解する酵素として働き、肺の炎症を抑える効果があることも報告されています。
つまりこれまでの研究結果からは、ACE2と新型コロナウイルス、心血管疾患には強い関連性があることは間違いなさそうですが、ACE2発現を抑制した方がよいのかについては結論が出ていない状況です(2020/3月時点)。
こうした報告を受けてアメリカ心臓協会(AHA)、アメリカ心不全学会(HFSA)、アメリカ心臓病学会(ACC)の3学会から「ACE阻害薬、ARBの服用は、新型コロナウイルス感染症罹患後の重症化要因にはならない」という共同声明も出ており、現時点では、ACE阻害薬、ARBを継続することが推奨されています。

このように新型コロナウイルスはACE2を受容体として感染し、生体内の免疫系のバランス(賦活と抑制)を壊してしまい、IL-6などの炎症性サイトカイン産生を増強してしまいます。
感染しても約80%は無症状か軽症で経過するが、高齢者を中心に約15%は重症肺炎となり、約5%は致死的な急性呼吸促迫症候群(ARDS: Acute Respiratory Distress Syndrome)になる。
また血管炎や血栓症、脳梗塞、心筋障害などを合併するとともに、急性腎機能不全などの多臓器不全を合併することが多い
こうして体内で生産された炎症性サイトカインにより、自らの臓器を自らの免疫細胞が攻撃してしまう状態ができあがってしまいます。
関節リウマチなどの慢性炎症性疾患発症に重要な役割を果たし、抗IL-6受容体抗体のトシリズマブはこれらの疾患の治療に有効である。

COVID-19に見られるARDSは、サイトカインストームにより生ずると考えられる。CAR-T治療における致死的な副作用であるサイトカインストームに対して、抗IL-6受容体抗体トシリズマブは有効である。

本論文では、サイトカインストームがIL-6アンプの活性化により生じていることを考察するとともに、抗IL-6受容体抗体トシリズマブや、AngII-AT1R阻害薬のCOVID-19治療への可能性について言及する。  

Q. 重症となる機序は?

https://www.rcc-icr.com/post/no-94-%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%82%B9%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87%E3%81%AF%E3%81%A9%E3%81%AE%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%AA%E6%A9%9F%E5%BA%8F%E3%81%A7%E9%87%8D%E7%97%87%E5%8C%96%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%8B

・COVID-19肺炎患者の約80%は、特定の治療なしで回復する。

・肺炎を起こした患者の一部では、正常な肺胞上⽪細胞-血管内⽪細胞を構築しているバリア構造の破壊、および多臓器病変を伴う重篤な疾患に進⾏する。

・患者の約20%は症状が発症した7〜10⽇後に、しばしば急速に悪化する。

・これは、発熱、低酸素症、リンパ球減少、種々の炎症マーカーの上昇(C反応性タンパク質(CRP)、インターロイキン-1(IL-1)、およびIL-6)、血液の凝固障害、が関与しておりさらに⼼⾎管病変の発症を来すことによる。

・重症者の約25%は人工呼吸器の装着を必要し、死亡率が⾼くなる(50〜80%)。

Q.悪化で不明な点は?

・悪化は、SARS-Cov-2に対する抗体、またはT細胞の免疫システムの関与を⽰唆しているがその詳細は不明。

・免疫異常による炎症としての多くの特徴がある。その問題点の一つとして、血管の内⽪細胞の損傷は、補体の活性化、抗体に対する依存性が増強、サイトカイン放出に伴う免疫が関与する組織の損傷に起因する可能性があるがこの詳細は不明。

・重症化する明⽩な原因は、SARS-Cov-2⾃体の特性にあり、これが免疫異常を起こすがその機序は不明である。

・肺の上⽪細胞と血管内⽪細胞により正常な肺胞の構造が成り立っているがそのバリアの破壊が起こり、さらに感染を広範に広げていく。その結果として、血管の内⽪細胞の損傷とウイルスの感染の拡大を引き起こす。

・ウイルス量が疾患の重症度と相関している可能性がある。大量のウィルスがより重症の肺病変を起こす。重症化すれば、ウィルスのRNAが陽性のままで長く経過する。この期間は他者への感染のリスクとなる。

・重篤な疾患のある患者の肺でアクティブなウイルス複製がどれほど⻑く持続するか、⾎管の内⽪細胞などでACE2が発現する肺以外の部位でウイルスの複製がどれだけ頻繁に発⽣するかが不明である。


新型コロナウイルス感染症に対する肥満のリスクが改めて浮き彫りになってきた。米大が世界約40万人の患者を調べたところ、肥満でない人に比べて感染するリスクが約1.5倍、重症化リスクは約1.7倍、死亡リスクは約1.5倍それぞれ高かった。

サイトカインストーム

新型コロナ 重症化しやすい人は? 肥満、男性、糖尿病、喘息などそれぞれのリスクについて(忽那賢志) – 個人 – Yahoo!ニュース

子どもで感染率低い理由は?

子供はなぜ、新型コロナウイルスに感染しにくいのか? | 新型コロナ関連情報 | 公益財団法人 東京都医学総合研究所 (igakuken.or.jp)

先日カナダから発表された論文によると、検査で採取した肺組織を調べてみたところ、ACE2受容体が、喫煙をしたことがない人、過去に喫煙をしていてその後禁煙した人、今でも喫煙をしている人の順に多くなる傾向が示されました。
また肺機能の側面から見てみても、喫煙によって肺機能が低下しているCOPD患者さんの場合、そうでない場合に比べて肺組織にACE2受容体が多く現れていることが分かりました。Eur Respir J. 2020 May; 55(5): 2000688
動物実験ではたばこによる煙に気道がさらされるとACE2受容体が増加することも分かっています。Burns. 2015 Nov; 41(7): 1468–1477


また別の要因も考えられます。

肺には異物を包み込む粘液の分泌(=痰)や、痰を外に送り出す繊毛運動、それにこれらのような異物を外に飛ばす咳反射など、自浄を促す作用があります。
しかし高齢になるとこれらの能力が低下します。
これに加えて喫煙による煙は肺の繊毛の働きをさらに低下させてしまいます。
そのためウイルスがより肺の奥に入り込んでしまう可能性がより高まってしまいます。

さらにそもそも喫煙するときには、手で持ったタバコを口に向けるので、手のウイルスが口から侵入しやすいことも示唆されています。

これらにより、喫煙者やCOPDの患者さんではコロナウイルスに感染しやすく、それが悪化しやすい原因になる可能性があると考えられるのです。

コロナと喫煙、そしてCOPD | 医師ブログ (katoiin.info)

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この記事を書いた人

たけしのアバター たけし アラフォー外科医

40歳を過ぎ、人生に焦りを感じ始める
自分がすべきことを探求した結果、健康に関する情報発信を始める
妻の経営する弁当屋のホームページも担当

将来の夢は自分のクリニックをひらき元気な高齢者を増やすこと

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