誰しも一度や二度は、「盲腸で手術した」と言う会話を耳にしたことがあると思います。

俗にいう「盲腸」とは、正確に言うと「急性虫垂炎」のことです。 生涯のあいだに虫垂炎(いわゆる盲腸)を発症する確率は約5~7%程度と言われています。
つまりいつ、どこで、だれが虫垂炎になってもまったくおかしくないのです。
さて、ではあなたが虫垂炎と診断されてしまった場合、その場で緊急手術を受けるべきでしょうか?
それとも、いわゆる「くすりで散らす」つまり抗生物質による治療を行い手術を回避する治療法(これを保存治療と呼ぶことにしましょう)を選択する余地があるのでしょうか?
結論から先に言えば、保存治療にも緊急手術にも一長一短があるため、臨機応変に選択するというのが理想だと思います。
現在は多くの疾患に「診療ガイドライン」が作成されており、このガイドラインに沿って治療が行われることが一般的です。
消化器領域で言えば、「胃癌診療ガイドライン」「胆石症治療ガイドライン」「大腸診療ガイドライン」「消化性潰瘍診療ガイドライン」「膵炎診療ガイドライン」などがあり、数年毎に最新情報に更新されていきます。
ところが、日本の虫垂炎治療においては「診療ガイドライン」が存在せず、そのため各施設ごとに治療方針が異なります。
逆に言えば、これだけ我々にとって身近な病気であるにもかかわらず「虫垂炎診療ガイドライン」が存在しないということは、科学的に証明された推奨される治療方針が決定できないということなのでしょう。
虫垂炎の治療方針選択のためには一般的な虫垂炎の治療方法と治療成績、問題点を知る必要があります。
手術療法のメリットは「切ってしまって後腐れなく退院」ができるということです。
手術で切りとってしまえば、早ければ術後数日で退院でき2度と虫垂炎に悩まされることはありません。
一方、手術のデメリットは合併症です。
手術と合併症は切っても切れない関係にあります。
医学の進歩に伴い、外科医は合併症の少ない治療法を開発してきましたが、合併症ゼロの手術は未来永劫あり得ません。
急性虫垂炎手術で起きやすい二大合併症は「創感染」と「遺残膿瘍」です。
虫垂炎は、腸内細菌による虫垂の感染が原因ですので、すでに虫垂内で増殖した大量の細菌がおなかの傷(創感染)やおなかの中に貯まってしまう(遺残膿瘍)可能性があります。
その治療には抗生物質やドレナージという治療を行うのですが、治療には2週間~1か月程度かかる場合もあります。
最近では腹腔鏡手術による小さな傷による手術が可能となり、痛みも軽減され美容的にも優れるため、広く普及しています。
またそういった術後合併症を少しでも減らすために考案された治療法として、一旦抗生剤で治療しておいて数か月後に手術をするという方法もあります。
では、つぎに保存治療について見ていきましょう。
保存治療の最大のメリットはもちろん「手術を回避できる」ことです。
一方、保存治療のデメリットは「治療が不成功に終わる可能性がある」ことと、「再発の可能性がある」ことです。
「治療が不成功に終わる」というのは、抗生物質の治療効果が不十分で痛みや発熱が治まらず、後日手術が必要になってしまうになってしまうことです。
保存治療後に手術が必要となった患者さんは10~37%、その時期は発症から4~7カ月の比較的早期に多いという過去の研究データがあります。
つまり、保存治療は3人に1人程度の確率で後日、虫垂炎が再発するということです。
保存治療を選択することは、再発の危険を抱えることと同義です。
たとえば、医療費が高額なことで知られるアメリカで虫垂炎手術をすると無保険の場合500万円ほどかかると言われています(ネット記事より)。
海外旅行が趣味の人や海外出張が多い人は意を決してさっさと手術してしまった方が賢明かもしれません。
医療先進国であればお金の問題だけで解決できますが、たとえばアフリカのへき地や南極、北極、無人島などで不幸にも虫垂炎が再発してしまったら、十分な治療を受けられずに死んでしまう可能性すらあるのです。
それ以外にも、若い女性であれば妊娠中に再発してしまったり、受験生が受験シーズンに再発してしまったり、大事な仕事で休めないときに再発するなどというケースも考えられます。
日本の虫垂炎切除率が50%でも100%でもなく「70%」という数字は、こういった要素を加味して検討した結果、導かれた切除率「70%」 なのだと思います。
では最後に、私自身や私の家族が虫垂炎になったら私はどうするでしょうか?
みなさん同様真剣に悩むでしょうね、でもやはり最終的には手術を選択せざるを得ないかな・・・というのが正直な意見です。
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