働きたい者には迷惑でしかない働き方改革

医師の働き方改革にいよいよ国が本腰を入れて改善に取り組み始めました。
この改革、私にとっては迷惑でしかありません。

医師の労働時間は確かに長いです。
今まで働いてきた病院の中には、そもそも時間外労働を申告する制度や書類すらない病院もありました。
厚労省の調査でも半数以上の勤務医が年間960時間(月80時間)を超える時間外労働を強いられているという調査結果があります。
つまり今までは「医師たるもの時間外労働が多くて当然」、そこは我々働く側も関係省庁も暗黙の了解であったわけです。
長年見て見ぬふりをしてきた医師の働き方に突然、国がメスを入れたわけです。
しかも時間外労働を超過した場合の罰則規定まで設けると意気込む厚労省・・・
医師の上限規制開始には5年間の猶予期間が設けられ2024年月より開始される予定なのだそうですが、果たしてこの改革は国の思惑通り吉と出るでしょうか。

私見を言わせていただけば、改革の骨子はいかにも国が考えそうな机上の空論、絵に書いた餅にように思えてなりません。その一部をご紹介します。
・協働するチームを作り長時間労働ではない持続可能な働き方や柔軟な働き方を医療機関にも求める
→都心部のように医師が潤沢な地域はマンパワー的には可能かもしれませんが、 地方病院では私の経験でも外科医3人で365日をカバーしている病院もありました。
その病院では緊急時には全員集合するしかないのです。
地域医療を支えている地方中小規模病院は一体どう改善しろと言うのでしょう?

・患者、住民にて上手な病院へのかかり方を周知する
→お医者さんが忙しくて大変だから夜間休日に具合悪くなるな、救急車を呼ぶな、事故起こさないよう家でじっとしてろ、とでも言うのでしょうか?


極端な話として、働き方改革が医療界にも完全に浸透した近未来を想像してみましょう。
あなたが非常に困難な手術が必要な状況に陥り、説明したベテランA医師を信じて手術を受けたとします。
手術が長引き、業務時間を過ぎても手術が終わらない、そこでA医師が「じゃあ17時になったから僕は子どもの迎えがあるのでこれで帰りますから夜勤のB先生、手術の続きよろしくね~」となったら手術を受けたあなたはどう思われるでしょうか。
手術の結果が全員よければもちろんいいのですが、中には術後に合併症が起きることもあります。
重篤な合併症が生じた場合、通常は執刀したA医師が(たとえ自分の休日であっても)自ら問題解決のために対応することが一般的ですが、その日は執刀したA医師は休みのため、初めて見るC医師が対応するとしたらどうでしょうか。そして残念ながらうまく対処できなかったらどうでしょう。
その責任は誰が負うというのでしょう(たとえ医療過誤には当たらない内容であったとしてもあなたはやりきれない思いを抱えてしまうことになりませんか?あのときA先生が来てくれていたらこうはならなかったかもしれない・・・と)。
およそ治療行為というのは説明した主治医と患者さんとの契約なのですから、最後まで主治医が責任を持って治療にあたるべきだと私は考えます。
何しろ我々が扱っているのは「かけがえのない命」なのですから。

確かに現状の働き方に不満や不安を感じたり、実際に過労死やうつ病、自殺などの健康被害が出てしまった医師がいるのも事実です。
その一方で、医師の中には私のように「いまの労働条件でも全く問題なく働けるのに、医療業界の時間外労働規制なんて言語道断だ。」とお考えの人もいると思います。
ですから「今更になって一律に規制する必要はない」というのが私の率直な意見です。

働き方改革を推進する理由の一つに「働き方改革をしないと将来医師になる人材が確保できない」とお国は危惧しているようですが、大手生命保険会社が中高生1000人を対象に行った「中高生が思い描く将来についての意識調査」のアンケート調査の結果、働き方については「給料は高いけれど、残業時間が長い会社で働いている」(中学生55%、高校生54.4%)が「給料は低いけれど、残業時間が短い会社で働いている」(中学生45%、高校生45.6%)より多かったと報告しています。

医師の働き方改革を断行すると宣言した厚労省・・・
果たして日本の医療は、今後も同じ高水準を保持し続けることができるでしょうか?
それとも予想に反して衰退をたどるでしょうか?





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この記事を書いた人

たけしのアバター たけし アラフォー外科医

40歳を過ぎ、人生に焦りを感じ始める
自分がすべきことを探求した結果、健康に関する情報発信を始める
妻の経営する弁当屋のホームページも担当

将来の夢は自分のクリニックをひらき元気な高齢者を増やすこと

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